“無線LAN”を新しいサービスの軸に据える戦略
当初の予定から急きょ1日繰り下がり、再びNTTドコモの発表会とぶつかることとなったソフトバンクモバイルの新機種・新サービス発表会。この発表会において、ソフトバンクモバイルの代表取締役社長である孫正義氏が真っ先に打ち出していたのが、携帯電話で無線LANを利用し、より高速でネット接続が可能になる「ケータイWi-Fi」である。
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これは文字通り、携帯電話に無線LAN機能を搭載し、無線LANのアクセスポイントに接続することで、下り最大54Mbpsと、携帯電話のHSDPA網(下り最大7.2Mbps)より高速でネット接続ができるというものだ。S!メールなどは引き続き携帯電話網を経由する形となるが、Yahoo!ケータイやPCサイトブラウザなどの利用は快適になる。
接続可能な回線は、NTTドコモの無線LAN対応サービス「ホームU」と異なり、ブロードバンド回線の種類が限定されない。またソフトバンクテレコムが提供する公衆無線LAN対応サービス「BBモバイルポイント」のエリアを中心に「ソフトバンクWi-Fiスポット」が用意され、追加料金なしでこれらに接続して利用することも可能になる。
無線LAN接続機能を搭載した携帯電話は、NTTドコモのN-06Aやauのbiblioなど、他社向けにはすでにいくつかの機種が提供されている。しかし、それらはあくまで無線LANを補助的な機能と位置付けており、機種数もそれほど多くない。
だがソフトバンクモバイルは今回、ケータイWi-Fi対応機種を一挙に5機種用意。未発売の夏モデルである「931N」も含めると計6機種となり、急速に無線LAN対応機種を増やしてきている。
ソフトバンクモバイルの新戦略は“無線LAN”。孫氏は3G携帯電話を“鼻”、Wi-Fiを“口”に例え、その速度の違いを強調していた(画像クリックで拡大)
iPhoneを強く意識した?ケータイWi-Fi向けコンテンツ
ケータイWi-Fiは、単に通信速度が速くなるというだけでなく、無線LAN接続時に楽しめる「ケータイWi-Fiチャンネル」も利用できるようになるという。
提供されるコンテンツは動画を中心とした大容量のものが中心で、映画の試写会やレンタル動画、Yahoo!動画などのウェブ動画サービス、さらに雑誌や新聞などを有料・無料で楽しむことができる。
説明員に話を聞いたところ、ここで提供されるサービスの多くは、一部を除き携帯電話網だけでも利用できるものだという。しかし、通常は分割配信されている動画が一括でダウンロードできるため、快適に楽しめるようになるというわけだ。また、映画や新聞など無線LAN接続時のみ楽しめるコンテンツも提供されるとのこと。
ケータイWi-Fiのサービスやコンテンツを見ると感じるのが、やはりiPhoneを強く意識しているということだ。ケータイWi-Fiチャンネル上で提供される「産経新聞」や「マガストア」などはiPhone向けに提供されているものであるし、孫氏の発表を聞くに、無線LANに接続するという発想自体、iPhoneからヒントを得ている部分が大きいように感じられる。
「ケータイWi-Fiチャンネル」で提供されるコンテンツには、iPhone向けに提供されているものも多い。iPhoneに強く影響を受けている部分も感じさせる(画像クリックで拡大)
ケータイWi-Fiに対する3つの疑問
しかしながら、ケータイWi-Fiのサービス展開には疑問を感じる部分も多い。
まず第1に、料金が決して安くならないということ。
無線LAN接続時は携帯電話網を利用した通信が発生しないにもかかわらず、利用料490円+定額通信料4410円が毎月かかることになる。他社の無線LANサービスを見ると、無線LAN接続中の通信料はかからないだけに、強制的に「パケットし放題」の上限料金がとられてしまうというのは敷居が高いように感じる。
第2に、無線LANの使い勝手の問題である。
無線LANは使用時のバッテリーの消費量が大きくなる。そのため、iPhoneをはじめスマートフォンでも常時オンにしている人はほとんどいない。それゆえ、頻繁に利用するとなると、無線LANの電源ON/OFFという作業がかなりの頻度で発生することになる。また携帯電話網を利用している分には不要な“接続設定”をしなければならないというのもウィークポイントだ。
そして第3に、ターゲットの問題である。
(スマートフォンではない)携帯電話で携帯サイトや携帯コンテンツを積極的に利用する層は、PCを所有していない、あるいはPCの使用頻度が低い傾向があり、自宅に無線LAN、ひいては固定ブロードバンド回線を引いていないケースも多いと考えられる。また携帯サイトやコンテンツに求められるのは、どちらかというと“高品質”よりも“手軽さ”だ。2点目に挙げたような面倒さはマイナスポイントに働く可能性が高い。
関係者などに話を聞いたところによると、ケータイWi-Fiは携帯サイトのアクティブユーザーを獲得するというよりも、どちらかというと、従来の携帯コンテンツを積極的に利用しない、PCを主体に利用するユーザー層を取り込むためのもの、と位置付けているようだ。
だが、そうしたユーザーはiPhoneなどスマートフォンを好む傾向がある。iPhoneを積極的にプッシュする同社が、それとバッティングする層をターゲットするのには、少なからず疑問を抱いてしまう。
無線LANで接続するには、無線LANが利用できる環境が必要となる上、電源のON/OFF、アクセスポイントの設定などさまざまな手間が必要となるなどハードルが高い(画像クリックで拡大)
“カラフル・シンプル”はユーザーの心を掴めるか?
ケータイWi-Fiと同様に力の入った発表がなされていたのが、「COLOR LIFE(840P)」と「Jelly Beans(840SH)」という2つの機種である。
これらはそのネーミングの通り、多くの“色”を取り揃えたカラフルなデザインの端末で、一昨年の“PANTONEケータイ”「812SH」を彷彿させる内容となっている。端末だけでなくパッケージも各種カラーを意識した特別なものとなっており、トータルでのデザインを重視している。
機能的にも大きなポイントがある。これらはいずれもFeliCaを搭載しておらず、ディスプレーがWQVGAクラスで、カメラも200万画素。840P、840SHに至ってはワンセグも省略されている。これだけ機能が削られているということは、大幅なコストダウンが図られているといえ、他の端末と比べてもかなり安価で販売されるものと考えられる。
こうしたことから、これらはNTTドコモのコラボレーションモデルのような“女性向け”というよりも、機能はシンプルながら、安価でロングセールスを記録している同社の830Pに近い位置付けで、比較的幅の広い層を狙ったものといえそうだ。
だが、「若い女性ほど携帯電話の機能を積極的に使いこなす」「高齢者層にワンセグを求める人が少なくない」など、デザイン性やシンプルさを求めている層が必ずしも機能を求めていないかというと、決してそうではないというのも事実である。
しかも、カラーが少なかった830Pとは異なり、これらのモデルは色数も多い。量販店の動向を見るに、色の豊富さを訴えた812SHが、結果として不人気色が安価で“一括”に多く流れたという過去もある。 それだけに、同社の思惑通り、“シンプル・低価格”を再びヒットに結びつけられるかどうかは、不透明な部分もあるように感じられる。
本体だけでなく、パッケージにもカラーとデザインを取り入れた「COLOR LIFE」と「Jelly Beans」。機能を省きコストを抑えていることから、安価に販売されると考えられる(画像クリックで拡大)
久しぶりにアピール力の高さを発揮
端末・サービス面では疑問に感じる点も多いソフトバンクモバイルの新施策だが、一方で感じたのが、同社のアピールの上手さが健在であったということだ。
例えばケータイWi-Fiは、サービス内容には難点があるものの、インフラ投資を抑えながら、ユーザーに“速さ”を訴求することは可能であるし、従来の携帯電話向けや、iPhone向けコンテンツをベースに、豊富なコンテンツを短期間で用意したというのも大きい。
またCOLOR LIFE、Jelly Beansの展開も、パッケージやディスプレーなどに注力したことで、店頭で視覚的に高い効果とインパクトを与えることができるだろう。
CM展開においても、キャラクターとして新たに映画監督のクエンティン・タランティーノ氏を起用。さらに新しい販促グッズとして、スピーカーになる“お父さんぬいぐるみ”を用意するなど、幅広い層に話題を与える工夫にもぬかりがない。
ここ1年ほどソフトバンクモバイルの動向を見るに、iPhoneに傾倒していたこともあってか、アピールの方向が“内向き”という印象が強かった。だが、今回の戦略に対しては、久しぶりに同社のアピール力の高さを見たように感じられた。果たしてこの訴求によって、“iPhone”と“低価格重視”以外の“1台目”ユーザー獲得に結びつけることができるだろうか。注目したいところだ。
タランティーノ監督が参加し、新しいお父さんグッズが用意されるなど、好評を博す“白戸家”の展開にも力が入れられている(画像クリックで拡大)
著 者
佐野 正弘(さの まさひろ)
ゲームやWeb、携帯コンテンツなどのデジタル・コンテンツを開発するエンジニアを経て、現在ではモバイル・携帯電話に関する執筆を中心に活動している。近著に「Windows Mobile×BUSINESS スマートフォン活用ガイド」「Android HT-03A入門ガイド」(翔泳社)など。