成城大学のどこでも無線LANを実現したエクストリコム
世田谷の閑静な住宅地の一角に校舎を構える成城大学。同大学が構築した新校舎に、エクストリコムの無線LANが全面的に導入された。製品選定は、同社製品が実現するシンプルさとパフォーマンスが決め手であった。
導入ユーザー:成城大学
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成城大学のキャンパス
1917年に開設された成城小学校を源流とする私立大学で、1950年に東京都世田谷区成城に設立。経済学部、文芸学部、法学部のほか、社会の革新を促すための問題解決型の学部として日本で初めて社会イノベーション学部を創設した。2009年5月現在の学生数は5749名。
学習効果を高める新校舎で
無線LANを立体展開
成城大学では、「新しい時代の大学像」を確立すべく、2005年から社会イノベーション学部の設立や全学共通の教育カリキュラムなどユニークな試みを続けている。そして、こうした試みを支える新しい教育の場として作られたのが、学生ホールを中心に据えた新3号館である。
2007年9月に完成した新3号館は、学生ホールの上部へ延びた吹き抜けを中心に、回廊状に教室や教授の研究室が配置されている。そして、全館に無線LANが張り巡らされており、教員も学生も自由にインターネットを利用できるようになっている。
成城大学 メディアネットワークセンター主任 五十嵐 一浩氏
成城大学内のITインフラを一手に担うメディアネットワークセンターの五十嵐一浩氏は、こうした無線LANの導入について「敷地の限られた住宅地内の大学という土地柄、巨大な教室内に多数のPCを設置するというのは難しいのです。ですから、教員も学生も自由にPCを持ち込んで使ってもらうようにしています。そこで、企業でいうフリーオフィス環境を実現し、調べ物や共同作業に活用してもらおうと考えたのが、導入の発端です」と述べている。省スペースと自由度という観点から無線LANの導入は自明の理といえる。
こうした経緯もあり、成城大学では以前から個人ユーザー向けの製品をスポット的に導入していたが、あっという間に限界が来た。アクセスポイント(以下AP)同士の信号干渉を防ぐための複雑なセル設計や管理を考えれば、単一APを前提にした個人向け製品では厳しかったのだ。そこで新3号館においては、エクストリコムの無線LAN製品を導入している。
シングルチャネルしか
考えていませんでした
エクストリコムはIT立国イスラエルの新興ベンダー。おもに中~大規模環境の無線LAN製品を扱っており、ワールドワイドではすでに多くの導入実績を積んでいる。日本法人は2007年4月に設立され、大学や病院、工場、一般企業での導入事例をすでに持っている。
成城大学が同社の製品を導入した理由は、シンプルなシングルチャネル対応のアーキテクチャと、パフォーマンスを高める「TrueReuse」という2つの先進的な技術だった。
シングルチャネル対応とは、複数のAPで1つのチャネルを共有する技術。一般的な無線LANでは隣接するAPで同一チャネルを利用するため、信号同士が干渉してしまう。しかし、エクストリコムの無線LANでは、無線LANスイッチ1台がパケット単位で送受信をコントロールしているので、同一チャネルを使っても混信は発生しない。よって、1つのチャネルですべてのエリアをカバーする」というきわめてシンプルな無線LANが実現する。
単一のチャネルで通信範囲を拡大できるシングルチャネルのメリット
シングルチャネル対応のエクストリコム製品は、他のAPとの干渉を気にせず、好きなところにAPを置いて、通信範囲を拡大できる。また、AP間での移動(ローミング)の際も、再認証やアドレスの再配布が必要なくなり、チャネルの管理もきわめて容易になる。
シングルチャネルを実現するエクストリコムのAPは、「UltraThin-AP」と呼ばれる名称のとおり、単なるアンテナに過ぎず、通信制御や暗号化などAPの役割は、「スイッチ」と呼ばれる同社のコントローラがすべて担う。つまり、エクストリコムでいうUltraThin-APは実はAPらしい機能は持っておらず、無線LANスイッチが集中処理しているという構造になるわけだ。
アンテナのみの機能に徹したエクストリコムのUltraThin-AP APを束ね、通信を完全に制御する「スイッチ」と呼ばれる無線LANコントローラ
スイッチはAPの電波出力を制御することで相互の干渉を抑えつつ、クライアントからは複数のAPを1つの仮想APに見せる。他社では接続時にスイッチからAPに設定を送り込むというタイプもあるが、こちらはAPに設定すら持たない。そのため、端末からは単一のAPと通信しているように見える。
五十嵐氏は「吹き抜けという新3号館の構造上、上階・下階からの電波は自ずと漏れてきますので、干渉が前提となります。また、図面のみで設計を行なわなければならず、しかも夏休みの終わりまでに構築する必要がありました。こうしたことから、詳細なセル設計や調整はきわめて困難です。そのため、最初からシングルチャネル対応の製品しか考えていませんでした」と語る。
成城大学 メディアネットワークセンター 田村忠才氏
一方、シングルチャネルの無線LANには、単一のチャネルを複数クライアントで共有するため、パフォーマンスが落ちてしまうという弱点があるが、エクストリコム製品ではTrueReuseという独自技術によってこれを解消している。TrueReuseとは、干渉しない程度の距離を保ったAPでの通信を同時に複数行なう機能。構築作業を行なった田村忠才氏は「対応したファームウェアでパフォーマンスを調べたのですが、実際に3倍に向上して驚きました」と高く評価している。
その他、接続ライセンスまで含めたトータルコストが安いこと、APが小さく熱を持たないことも重視された。また、IEEE802.11a/b/gなどを同時4本の電波が使えること、標準でPoEに対応し、エクステンダにより最大200mまで接続距離を伸ばせることなども評価された。「実は検証の際に、特定のチップでの11aの通信がよく切れるという問題がありました。しかし、エクストリコムさんには非常にスピーディにファームウェアを改良してもらいました。これで信頼度も上がりましたね」(五十嵐氏)という逸話もあったようだ。
最終的にエクストリコムの製品を選定し、2007年5月頃から実機を使って検証を開始。最終的に9月には新3号館での構築作業を終え、無事に新学期に間に合ったという。
UltraThin-APの設置はメディアネットワークセンターの担当者が行なった
構築作業は容易
あとからの調整もOK
3号館でのネットワーク構成図は下の図の通り。3フロアごとに1台のスイッチが設置され、UltraThin-APを集線して、バックボーンに送り込むという構成になっている。
成城大学3号館の無線LANトポロジ
構築作業は、メディアネットワークセンターの職員がすべて自前で行なったという。「基本的には教室内だけではなく、回廊の四隅に設置し、いわゆる死角となる部分には複数APを設置しました。距離も関係なく、AP同士の干渉を気にしないで密に設置できるため、構築は楽でした」(田村氏)と構築作業を振り返っている。
3号館のスイッチは3階ごとに設置されている
セキュリティに関しては、WindowsやMacintoshなどOS標準のIEEE 802.1x機能によって認証を行なうほか、MACアドレスフィルタリングも実施している。また、教授と学生でそれぞれESS-IDを分けているため、両者のトラフィックが混ざることはないという。エクストリコム製品については「とにかくシンプルで、構築も容易。トータルコストも安く、運用や調整をあとからいろいろ変更できる応用が利く点も、うれしいですね」と五十嵐氏は高く評価している。
安価なネットブックの導入で
トラブルも……
新3号館の導入後も、メディアネットワークセンターではエクストリコム製品の設置を進め、2009年8月には図書館をのぞくほとんどの校舎で利用可能になっている。また、従来の100Mbps対応のワイヤレススイッチに加え、ギガビット対応の「EXSW-1600」も1台導入したという。
ギガビット対応の最新スイッチ「EXSW-1600」
現在、一番頭を抱えているのが、ネットブックへの対応だ。「教授の方々が授業で使うということで、安価なネットブックを導入する生徒さんが増えています。しかし、特定のネットブックの特定の機種で、無線LANがつながらないというトラブルが増えているんです」(五十嵐氏)ということ。たとえば、学生に人気なネットブックとしては、やはり軽くて手頃なアスースの「EeePC」が挙げられるが、EeePCは非常にモデルが多く、採用する部品等も機種によって異なる。そこで、特定のチップとドライバ、OSの組み合わせで、近接ではなく、7号館の向かいにある1号館の電波を拾いにいってしまい、接続が失敗してしまうというものだ。特定のAPを優先して接続しに行くという設定ができない機種も多く、かつドライバのアップデートを生徒にやらせるのも難しすぎるという状態なので、運用でカバーしているとのこと。
また、Windows XPであとから追加された形のIEEE 802.1Xのサプリカントがうまく動作しない場合等もあるという。こうした点から「XPでつなげないという生徒が駆け込んでくると、ドキッとします」(田村氏)とのことだ。
一方で、iPhoneに関しては、まったく問題なく、簡単に使える。むしろ、メディアネットワークセンターの担当がトラブル対応でPCとiPhoneを持ってつないでみると、接続できないPCのユーザーも自身のPCに問題があることを納得するという。
成城大学での無線LANの利用はますます拡大しており、五十嵐氏も今後はセキュリティ対策も必要になってくると考えている。ここらへんは住宅地内にキャンパスを抱える大学ならではの悩みといえよう。「無線LANを授業で使っていた場合、もしDoS攻撃などで切断したら、大変です。そこで、既存の環境を変えず、いたずらされている場所をすばやく特定するような不正アクセス対策は必須です」と語る。その他、学内のどのプリンタからも簡単にレポート等を出力できるオンデマンドなプリンティングソリューションの展開も考えているという。