日本通信のPC向けデータ通信「Doccica」は、一般ユーザーに受け入れられるか?
MVNO(仮想移動体通信事業者)によるデータ通信サービスを展開している日本通信は、去る2009年3月10日、NTTドコモとのレイヤー2レベルによる相互接続による、3G回線を利用したモバイルデータ通信サービスの新製品「Doccica(ドッチーカ)」の発表を行った。既に3G回線を用いた同種のサービス「b-mobile 3G」を展開している日本通信がDoccicaを展開する意味はどこにあるのだろうか。また、激化が進むモバイルデータ通信市場で、どこまでの存在感を発揮することができるだろうか。
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“Doccica”と“b-mobile 3G”は何が違うのか
日本通信は、自社でインフラを持たないMVNOによる通信事業を展開している企業だ。データ通信としては、2001年からはウィルコム(当時はDDIポケット)のPHS網を用いたデータ通信を展開しているが、2008年にはNTTドコモの3G回線を用いたデータ通信サービスを提供している。
ちなみに3G回線の相互接続に関しては、2006年に日本通信がNTTドコモに申し込みを行ったものの協議が決裂し、2007年に日本通信側が総務大臣に紛争処理の裁定を求め、2008年にようやく最終的な合意を得るという、紆余曲折があって実現されたものだ。
その日本通信が発表した新サービスが「Doccica」だ。これは、相互接続に合意したNTTドコモのネットワークを用いたPC向けのデータ通信サービスで、現在主流となっている定額制ではなく、時間単位による従量制を用いている。料金体系も月額料金制ではなくプリペイド方式となっており、クレジットカードがあればPCから手軽にチャージできるというのも、大きな特徴となっている。
もっとも時間単位による従量制のプリペイド式データ通信サービスは、既に日本通信自身が「b-mobile 3G」として展開している。では、両者の違いはどこにあるのかというと、1つは“料金”だ。
b-mobile 3Gの初期費用(bモバイル3G アワーズ150)が150時間分の利用時間込みで3万9900円、更新ライセンスが50時間で1万2800円、130時間で3万1800円となっている。一方Doccicaは、初期費用が500分(約8時間半)の利用時間込みで1万4800円、チャージ料金も1000円(100分)~1万円(1000分)となっており、b-mobile 3Gと比べるとだいぶ敷居が低くなっている。ただしチャージ分が利用できる“有効期間”がそのぶん短く、b-mobile 3Gの有効期間が450~480日であるのに対し、Doccicaは60~120日となっている。
そしてもう1つの違いは“通信手段”である。b-mobile 3Gは、3G回線によるデータ通信しか利用できないのに対し、Doccicaは3G回線に加え、無線LANによるデータ通信も可能だ。ちなみに3G回線の場合は1分単位の課金だが、無線LANを利用した場合は30分単位でまとめて課金する形となる。
日本通信の新しいモバイルデータ通信サービス「Doccica」は、3G回線に加え無線LANに対応し、いずれもワンクリックで接続できるのが特徴。端末はb-mobile3G同様中国のZTE製(画像クリックで拡大)
Doccicaの料金体系。初期費用が14800円、チャージ料金も1000円からと、従来より安価となっている(画像クリックで拡大)
「レイヤー2接続」で多様なサービスが可能に
Doccicaとb-mobile 3Gとの決定的な違いは後者にあるという。そしてその違いは、レイヤー3とレイヤー2という、MNO(移動体通信事業者。今回の場合はNTTドコモに当たる)との接続形態の違いにあるようだ。
では、レイヤー3接続とレイヤー2接続では何が違うのかというと、通常MNO側が持っている、無線通信と固定通信網とを接続するSGSN(Serving GPRS Support Node)とGGSN(Gateway GPRS Support Node)のうち、レイヤー2ではインターネットやイントラネットとのゲートウェイとなるGGSNをMVNO側が持つことができるのだ。これによってMVNO側でネットワーク帯域制御の自由度が大幅に増し、機器の利用に応じた細かな通信制御が行えるようになるという。
レイヤー2接続とレイヤー3接続との違い。レイヤー2ではネットワークのゲートウェイとなるGGSNをMVNO側に設置でき、ネットワークの細かな制御が可能になるという(画像クリックで拡大)
例えば自動販売機やATMなどに搭載された通信モジュールであれば、送受信するデータ量や時間も決まっているため、PCで利用するモジュールと比べ、やり取りするデータは限られている。こうした機器に向けて帯域を制御することで、サービス料金を大幅に下げられるようになるという。
また、帯域制御だけではない。例えば、通信をインターネットに流さず専用回線だけに接続することで、安全性の高い環境を作り上げることが可能になる。Doccicaの無線LAN接続にもこうした仕組みが利用されており、ID・パスワードを自動生成し、3G回線経由で日本通信の認証システムに接続して認証を行っているという。これによって、SSIDやWEPキーの入力が不要な、ボタンを押すだけで無線LANに接続できるという仕組みを実現しているのだ。
3G回線だけでなく無線LANへの接続もID・パスワード入力が不要で、ワンクリック接続できる。この仕組みにもレイヤー2接続が生かされている(画像クリックで拡大)
レイヤー2接続は大容量通信にメリットとなる?
実際にb-mobile 3Gを利用したことがある筆者としては、3G回線だけでなく無線LANによる接続も可能となったDoccicaは、b-mobile 3Gと比べるとメリットが大きいと感じている。
b-mobile 3Gは3G回線のみの利用、かつ回線をレンタルしているという関係もあってか、実際に使ってみると動画ストリーミングなどの大容量データ通信に対して非常に弱いという印象を強く受けていた(本誌特集「最適なサービスはどれ? モバイルインターネット環境徹底分析」も参照されたい)。だがこうした弱点も、HOTSPOTやBBモバイルポイントなど、対応している公衆無線無線LANのアクセスポイントに接続できることで(場所は限定されるものの)ある程度解消されることとなる。
また、レイヤー2接続によって日本通信側での帯域制御自由度が増したことで、3G回線によるデータ通信の際も大容量通信時に帯域制御を行い、従来より通信速度の改善がなされる可能性も考えられる。
ちなみに日本通信は3Gと無線LANだけでなく、将来的にはモバイルWiMAXやLTEなどへの対応も検討しているというが、現在のところ、モバイル WiMAXなどは接続料金が高額であるなど条件が整っていないとのことで、具体的な動きがすぐ見られるというわけではなさそうだ。だが、同社が携帯電話網による地方の活性化やデジタルデバイド解消を目的とした「ふるさとケータイ」事業に力を入れていることもあって、ケーブルテレビ事業者を中心とした地域WiMAXを展開する事業者と何らかの取り組みを行う可能性を示唆していた。
会場では、無線LAN接続でYouTubeの動画を再生するデモが行われていた。b-mobile 3Gと比べ、大容量通信環境は大幅に改善される可能性があるといえる(画像クリックで拡大)
競争激化のコンシューマー市場でどうアピールしていくのか
Doccicaはb-mobile 3Gより料金が安価に設定されている。それゆえ、b-mobile 3Gはビジネス市場向け、Doccicaはコンシューマー市場向けと位置付けられるようだ。
Doccicaのサービス発表会において、日本通信の代表取締役社長の三田聖二氏は、現在のデータ通信サービスの料金体系についてパケット量単位の課金方式は分かりにくく、定額制は使わない時も支払わなければならないことから「複雑で不親切だ」とし、時間課金による従量制の“分かりやすさ”をアピールしていた。
確かにパケット量によるスライド式の定額料金制は、データ量の多いWebサイトなどが増えている現在、ほんの数サイト見ただけで上限金額に達することを考えれば、あまり意味をなしているとはいえない。さらにネットブックなどとデータ通信端末のセット販売に関しても、競争が激しくなるにつれて月額料金が異なる複数の“買い方”が登場し、料金の複雑化が進むなど、不満に感じる部分が増えているのは事実だ。それゆえ、Doccicaの“時間課金”というアピールは、移動中や外出先で利用するという、純粋な“モバイルデータ通信”という意味では分かりやすく利便性が高いといえる。
しかし一方で、「コンシューマー市場を対象としている」ということが大きな課題となるかもしれない。既にコンシューマー向けのデータ通信サービスが激化している現在、Doccicaの存在やメリットをユーザーにアピールしていくのは、それほど簡単なことではない。ちなみにDoccicaの販売戦略について、発表会で三田氏に訪ねたところ、既存キャリアのようなセット販売や大規模な広告展開は行わず、実際にユーザーに利用してもらうなどして口コミなどによって広めていく方針、とのことであった。
だが、一部の大手家電量販店で販売されているb-mobile 3Gの例を見ると、初期投資のハードルが高いという事情があるとはいえ、明確なPRを行っていないこともあってか、セット販売などで激しいPR合戦を繰り広げる既存キャリアの中では埋もれてしまっている印象は否めない。Doccicaで本格的なコンシューマー市場開拓を狙うのであれば、こうした現状を打破する何らかの策を打っていく必要があるかもしれない。
定額制サービスは利用しない時も料金がかかり高額になる、パケット量はユーザーに分かりにくく、Webサイトのデータ量が増えている現在では高額になりやすいと、Doccicaのプリペイド・時間従量制というメリットをアピールしていた(画像クリックで拡大)
著 者
佐野 正弘(さの まさひろ)
ゲームやWeb、携帯コンテンツなどのデジタル・コンテンツを開発するエンジニアを経て、現在ではモバイル・携帯電話に関する執筆を中心に活動している。近著に「ケータイで稼ぐアフィリエイト 最新情報版」(技術評論社)、「Touch Diamond & Touch Pro入門ガイド」(翔泳社)など。