モバイラーマストダウンロード 「x-Radar」
ソニーが提供している位置情報アプリ「x-Radar」が実に面白い。Wi-Fiを利用して現在地を割り出すだけではなく、周辺に何があるかを示して案内までしてくれる。いわゆる「地図」とは異なる、位置情報の見せ方だ。
http://plusd.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0902/11/news001.html
昨年9月に行なわれた「ソニーディーラーコンベンション2008」で、地味ぃにあるアプリケーションが展示されていた。名前は「x-Radar」。よくある地図連動のサービスなのかと思って話を聞いたら、実はこれまでの位置情報サービスの概念を覆す、まったく新しい実験的プロジェクトであるということが分かった。これはすごいモノだ。
x-Raderの役割は、今自分がいる位置を割り出し、その近くにどんなポイントがあるかを示すことである。な、なにを言ってるのかわからねーかもしれねえので、もう少し詳しく説明しよう。
まず1点目のポイント。自分の位置を割り出すにはどうするか。そう、普通はGPSが必要である。しかしx-Radarは、GPSを必要としない。無線LAN機能が搭載されたデバイスがあれば、自分の位置が分かるのである。それはなぜか。公共無線LANのアクセスポイントの位置というのは、公開情報として存在する。また各ユーザーが共有アクセスポイントを設ける「FON」も、自分のアクセスポイントの位置を公開している。
それらのアクセスポイントが複数見つかれば、三角測量の要領で、自分の位置を割り出すことができる。実際にアクセスポイントにログインしなくても、単に電波を観測するだけで自分の位置が分かるのである。
ポイントの2つ目。自分の位置が分かれば、地図上でその位置を特定し、周辺になにがあるかはグルメサイトなどのデータを引っ張ってくればいい。しかし仮に地図が表示できたとしても、方角が分からなければどうしようもない。ランドマーク的なものがあればそれを頼りにできるが、初めて行った場所の大きな建物がなんという名前なのかも知らないような場合は、役に立たない。
それよりも根本的に、地図が読めないというタイプの人に地図を示しても、仕方がないのである。それよりもどっちの方向にどれぐらい歩いていけばいいかが分かったほうが、ナビゲーションとしては役に立つはずだ。x-Radarは、そういうことを示してくれるソフトウェアなのである。
どう使うのか
x-Radarは、現在ソニースタイルの「体験空間」にて無償公開されており、一般の無線LAN搭載ノートPCで動く。また昨今発売になったVAIO type Pにも、初めてプリインストールされた。すでにtype Pを買った人でも、x-Radarはなんだか使い方が分からなかったのではないだろうか。ここでは具体的に使い方を疑似体験してみよう。
まず、ある駅に降り立ったとしよう。初めて訪れた駅だ。そこでおもむろにPCからx-Radarを起動する。無線LANはONにしておく。x-Radar上には、いくつか公共スポットを含めたアクセスポイントが見つかるはずだ。この時点でx-Radarにはすでに、自分の位置が分かっている。
ここはどこ?(写真=左)、オモムロにx-Radarを起動して現在位置を測定。近くにFONスポットがあるらしい(写真=右)
まず無料で使える無線LANスポットを探そう。ダブルクリックで画面を拡大する。レーダー上には現在位置と時刻との関係から計算された太陽の位置と、センターから伸びる影が示される。これを今立っている位置で、実際の影の方向と合わせる。最寄りの無線LANスポットの方角とだいたいの距離が分かるはずだ。
自分の影と画面上の影を合わせて方向を知る
最寄りの無線LANスポットの近くまで歩いてみる。マクドナルドの近くにFONのアクセスポイントがあるようだ。30秒ほど歩いてマクドナルド発見。FONに接続できた。
詳細情報によれば、マクドナルドの近くにFONスポットがあるらしい(写真=左)、マクドナルド発見! 早速FONスポットに接続(写真=右)
ここまで書けば、FONユーザーはこれがひっくり返るほど便利なものだと分かるはずだ。従来FONのアクセスポイントを探すには、でたらめに歩いてFONルータが偶然見つかることを期待するしかなかった。FONの位置情報はネット上の地図に記載されているが、そもそもネットに繋げないのだから、どこにFONルータがあるか分からないのである。まさに「缶切りは缶の中」という表現がピッタリな、ダメダメソリューションだったのだ。
この問題がx-Radarで解決する。x-RadarはローカルにFONを始めとする無料・有料アクセスポイントの位置情報を持っているので、現在位置が割り出せる程度のポイントが見つかれば、電波が届かない範囲にあるルータの位置も表示できるのである。自分が加入していないポイントだらけの場所にいても、使いたいポイントのところまでたどり着けるわけである。
疑似体験に戻ろう。ここでちょっと遅い昼食を食べたいな、と思ったとしよう。目の前のマクドナルドに入れよという意見は却下する。ラーメン屋を探してみよう。今はラーメンの気分なのだ。x-Radarを「ラーメン」に切り替える。よさげな店が見つかった。ダブルクリックすると、お店のテキスト情報が表示される。
ラーメン屋の情報を検索。歩いていける距離で良さそうなお店だ
無料アクセスポイントにつながっているので、地図を見てみよう。画面上の「PetaMap」をクリックすると、場所の地図が表示される。もちろんこの地図を頼りに向かってもいいが、さっきアクセスポイントを探した要領で、影の位置を頼りにその方向に歩いていく。するとお店が見つかった。
x-Radarのそもそも
x-Radarの開発責任者、永田聡氏 x-Radarの技術的要素として、まずGPSなしに自分の位置が分かることが重要だ。無線LANを使った位置情報を割り出すエンジンが、クウジットの「PlaceEngine」である。そして次に、そこに何があるかの地域情報サービスが必要だ。それを提供するのが、ソニースタイルの「PetaMap」である。
x-Radarは、このエンジンとデータベースを結合させ、地図に頼らない位置情報を提供するソニー製のソフトウェアである。x-Radarの責任者であるソニー ニューエクスペリエンス企画開発課の永田聡氏と、ソニーマーケティングでPetaMapを推進する新規ビジネス推進2課の佐藤竜太氏にお話を伺った。
永田氏: x-Radarは今回初めてVAIO type Pにプリインストールという形になりましたが、2007年11月からソニースタイルの協力で無償公開してましたし、もともとVAIOにのせるために開発していたわけではないんです。私は以前ビデオ事業部にいたんですが、部活動的に集まってなんか楽しい事をやろうと。当時はいろんな部署に、隠れ位置情報マニアといいますか、位置情報を研究・開発している人が結構いたんですね。そういう人たちが集まってきて、x-perienceというチームを作ったのが5年前ぐらいの話です。
もともとのテーマは、「不良ナビ」。ナビというのは、ある目的の場所に向かってナビゲートするものですが、「今あなたの居る場所の近くに楽しいものがありますけどどうしますか? 行ってみますか?」というような、誘惑するアプリケーションはできないだろうかと考えたんです。「ドラゴンボール」における「ドラゴンレーダー」のようなものが原点ですね。
位置情報はまあGPSがある。じゃあスポット情報をどうしようかと社内で探したところ、ソニーマーケティングに「ペタマップ」があったわけです。それで協力してやろう、ということになりました。
PetaMapを推進する佐藤 竜太氏。ディーラーコンベンションで筆者に説明してくれたのも、佐藤氏であった佐藤氏: 現在PetaMapには、ユーザーからの口コミ情報が約10万件、オフィシャル情報として「グルメぴあ」、「るるぶトラベル」、「Golf Digest Online」などと連携したものが約20万件、合計30万件のデータがあります。オンラインでこれらの情報が使えるわけですが、PetaMapではこれらの中から自分に必要な情報だけを収集して、データをダウンロードすることもできます。例えば「nav-u」のようなナビゲーションに入れて、オフラインでも活用できるわけです。x-Radarには、この30万件分のテキスト情報データが収録されています。
x-Radarは、データベースを更新するために、2週間に1度アップデートが行なわれる。現在はソフトウェアをまるごとインストールし直す形だが、将来的にはアプリとデータベースを分離して、別々に更新できるようになる予定だ。
永田氏: この技術を搭載する製品は決まってなかったんですけど、こういう製品はアリかということをお客様に試してもらって、フィードバックを頂いてより良いものに展開していきたいと思ったんです。
しかしハードウェアがないので、PCでβ版を作ろうということになりました。ただ、GPSがすべての製品に乗っているわけではない。じゃあ位置情報をどうしようかと探したところ、当時ソニー内部でWi-Fi情報を頼りに位置情報が分かる研究をしていた「PlaceEngine」があったんですね。今はそこの部署が独立してクウジット社としてソニー外に出たんですが、いまだに協力関係にあります。
無線LANさえあれば位置情報が分かるPlaceEngineは、「みんなの地図」、「ニッポンのあそこで」 といったPSPのソフトにも応用されている。
進化するx-Radar
酒場情報はビールジョッキ型永田氏: 2007年に最初に出したときは、まだPetaMapにもまだそれほど情報がなかったんです。ただ、ラーメンの情報ならそれなりに件数が入っていた。そこでちょっとソニーのカラーと合うかどうかという問題は置いといて、インパクトはあるだろうということで、最初は「x-ラーメンレーダー」として出しました。スキンもラーメンのどんぶりにして。その後、カフェの情報も揃ってきたので、切り替えられるようにして、次に酒場の情報、という具合に増えて来ています。』
「ノーマル」というのは、フリーワードで検索できるようにしたものです。PetaMapもかなり情報が集まって、一般語の検索にも耐えられるようになってきました。そこでVer1.5の時に検索窓をのせました。自分の好きなものを探してふらふらっと行ってみるという、最初のコンセプト通りのことができるようになりました。
試しに「焼肉」で検索してみたところ、ラーメン屋とは反対方向にあることが分かった。そちらに向かって歩いていくと、ほどなくして「安楽亭」が見つかった。
ただしtype Pなどを持って移動する際は、時々位置情報を手動で更新する必要がある。自動更新は現在5分に設定してあるが、近場なら5分以内で到着してしまうからだ。手動での更新は、もう一度「カフェ」などのジャンルを選び直すか、自由検索ならばもう一度検索をかけてみることで更新できる。
ノーマルモードで「焼肉」を検索。安楽亭があるらしい(写真=左)、ホントだ。安楽亭があった(写真=右)
永田: ここも今後のバージョンでの改善ポイントですね。β版ということに甘えているつもりはないんですが、実際に使ってもらうと、我々が予想しなかった使い方が出てきます。当初は出張に持っていくような、もっと大きめのノートPCに入っているという想定だったんですね。PCを持ち歩かず、ホテルで情報を調べてフラッと出かけるような。ところがtype Pのようなマシンの登場で、ノートPCを見ながら歩いていくということが普通になってしまったわけです。
人が迷子になるというのは、どういう状況を指すのか。それは、現在位置と方向が分からなくなっている状態である。これまでは、地図が読める、読めないが、まさに迷子かどうかを分けていた。地図上の目印と実際の風景を一致させ、自分の位置とこれから向かうべき方向を導き出すことができれば、それは迷っているとは言わないわけである。
しかし、そもそも地図が苦手な人もいるだろう。筆者は子供の頃にボーイスカウト、高校では山岳部と、相当地図は読み慣れているのだが、たまに地図としての常識を逸脱したイラスト化や簡略化された地図に出会うと、理解するのに時間がかかる。もともと地図とは、最低限の約束事を元にロジックで攻めていくものであって、直感的に分かるというものではないのだ。
しかしx-Radarの見せ方は、このようなジレンマから逸脱できる。もっとも、周囲にアクセスポイントがまったくなかったり、曇りや雨の日、夜には役に立たない。しかしそのデメリットを差し引いても、新しい位置情報の見せ方だと言えるだろう。
今はまだ万能ではないにしても、地図やGPSなどと複合的に組み合わせることで、もっと確実に使えるものになると確信している。今後どんな製品に搭載されるか分からないが、方向音痴の家族を持ったために色々ヒドい目にあったことがある身からすれば、この見せ方自体に大きな価値があると思う。