法人顧客に“オンリーワン”サービスを――KDDI、法人ソリューションの新戦略
携帯キャリア各社が法人向けサービスを強化する中、KDDIが法人ソリューションの新戦略を発表。顧客のニーズをくんで最適化した提案ができる体制を整えるとし、柔軟な組み合わせが可能な内線ソリューションを発表した。
コンシューマー市場が飽和する中、携帯キャリア各社が法人市場拡大に向けた取り組みを強化している。
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0901/25/news004.html
こうした中、KDDIが法人ソリューションの新戦略を発表。より顧客のニーズに沿った“オンリーワン”サービスの提供を目指す考えだ。
KDDIソリューション事業統轄本部 FMC事業本部 FMC推進本部長の山本泰英氏は、KDDIの強みについて、固定網から移動網までをトータルで提供できる点や、130もの法人向けプロダクトがある点などを挙げる。こうした製品群を顧客のニーズにより最適化した形で提供できるよう、導入の初期段階から相談に応じ、必要な製品を組み合わせたソリューションを組み立てて提案する仕組みを用意するという。
法人ソリューション戦略を説明するKDDIソリューション事業統轄本部 FMC事業本部 FMC推進本部長の山本泰英氏(左)。法人向け新端末を紹介する、KDDIソリューション事業統括本部 ソリューション商品企画本部長の小林昌宏氏(右)
従来は顧客の要望に応じてサポートする“コンシェルジュ”タイプで法人ソリューションを提供してきたが、今後は「法人顧客との対話の中からニーズをくんでソリューションを組み立て、(電話番号やアプリの設定、外箱への名前入れなどの)業務支援をかぶせて提供する」(KDDI ソリューション事業統轄本部 FMC事業本部 FMC推進本部長の山本泰英氏)という
発表会では内線ソリューションの新製品や対応端末、au端末の法人向けアプリ環境を改善する「.net by au」も披露し、法人市場への取り組み強化を強くアピールした。
au網だけではまかなえない“内線電話”という需要
KDDIが発表した法人向け携帯電話の新製品「E05SH」「E06SH」は、構内PHSや無線LANに対応し、オフィスにある既存の構内交換機(PBX)に接続する内線電話として利用できることや、BREW上でWindowsアプリケーションを動作させるためのプラットフォーム「.net by au」を搭載していることが特徴だ。
KDDIは内線ソリューションとして、同社のIP直収電話サービス「メタルプラス(事業者用)」およびau携帯電話の回線に内線番号を付与し、相互に定額での通話が可能となるサービス「ビジネスコールダイレクト」を発表しており、法人向け新端末の発表にあわせて価格や提供時期を明らかにした。類似のサービスはウィルコムが「W-VPN」の名称で展開しており、ソフトバンクモバイルとNTTドコモもそれぞれ「ホワイトオフィス」「全国型内線サービス(仮称)」として、2009年に提供する意向を示している。
KDDIが提供する内線ソリューション
これらのサービスを使えば、例えばKDDIの場合、全国のauサービスエリア内であればどこでも内線通話が可能となる。外出中の営業担当者がどこにいても、ほかの社員からは短い内線番号をダイヤルするだけで呼び出せ、しかも内線扱いなのでいくら話しても従量料金はかからない。また、事業所間を直接つなぐ専用線を用意しなくても、複数のオフィス間で内線通話が可能となる。
ただ、ここでよく考えてみると、外出先から帰社した営業担当者は、内線として使える携帯電話を自分の席まで持って帰ってきているのだから、オフィスの机の上にある電話は廃止して、携帯だけに1本化してしまえばよいのではないか――という期待(いわゆる「モバイルセントレックス」)が、当然発生する。
しかし、既存の内線電話システムを完全に携帯電話に置き換えるのは、なかなか一筋縄ではいかない。会社の電話を実際に使う場面を思い出してみれば分かるが、内線電話では、誰かが受けた電話を保留にして別の内線番号に転送したり、離席中の隣の人へかかってきた電話を「ピックアップ」ボタンを押して取ったり、といった使い方が当たり前のように行われている。
これらは、電話機がPBXにつながっているからこそ可能な芸当だが、それに対して携帯電話の公衆網を利用する内線サービスでは、基本的には内線番号による発着信が提供されるのみで、保留転送などはできない。
E05SHでは、構内PHSや無線LAN(IP電話)に対応することで、この問題を解決する。使用するPBXや端末の機種にもよるが、構内PHSやIP電話のシステムでは保留転送やピックアップなどが可能なことが多い。このような、PBXにぶら下がっているワイヤレスの電話をE05SHに置き換えていくことで、従来の内線の使用感を失わずに、外出中も社内にいるときも同じ1台の端末を使うことができるというわけだ。
法人向け端末の新モデル「E05SH」は上部にSDIOスロットを搭載しており、用途に合わせて構内PHSカードや無線LANカードを選んで利用できる
ビジネスコールダイレクトのような“携帯内線電話”の普及が進むと、PBXを核とした従来型の内線電話システムの需要は、相対的に小さくなっていく可能性も考えられる。社員全員が内線電話を持っていれば、そもそも電話の取り次ぎが発生する機会は激減し、保留転送などの機能はあまり重要でなくなるという考え方だ。
しかし、日本企業のオフィスに深く根差した内線電話の利用体系は、そう簡単に変わることはない。実際に内線は便利に使われているし、極端なことをいえば「秘書を通さずに重役が直接電話を取るのか」「休憩中の仲間にかかってきた電話くらいは代わりにとってやりたい」などと考える人もいるかもしれない。それが業務効率や収益性の向上を目指す上で“本当に良いこと”なのかは別として、内線電話はある意味でビジネス文化として浸透してしまっている部分もある。
だからこそ、既存PBXとの連携がスムーズに行えるのは大きなメリットであり、KDDIも「社内の電話まで、全部をau網でやってほしいという考えではない。PBXがなくなることはない」(ソリューション事業統轄本部 FMC事業本部 FMC推進本部長の山本泰英氏)という考えだ。もちろん、既存のインフラを利用すれば導入コストを抑えられるので、その点でのメリットも大きい。
PC/携帯アプリの開発環境を一元化する「.net by au」
法人向けサービスに関する、もう1つの大きな取り組みが、マイクロソフトの.NET Frameworkと互換性のあるソフトウェア実行環境をBREW上に構築した「.net by au」である。
au携帯電話上で動作するアプリケーションソフトはBREWアプリとして開発・提供されており、法人向けの業務アプリでも一定の実績がある。しかし、Windows用アプリやJavaを扱う開発者の数に比べると、BREWのそれは少ない。.NETアプリがBREW上で動くようになれば、Windows XP/VistaやWindows Mobile向けに.NETアプリを開発している技術者が、それまでの資産やノウハウを活用してau向けの業務アプリを開発できる。
.net by auは.NET Frameworkのサブセットであり、またWindows Mobile向けの.NET Compact Frameworkとも別ものであるため、PCやスマートフォンと全く同じ業務アプリが動作するわけではない。しかし開発環境としては、同じVisual Studio 2008を使えるので、開発の負担は大幅に軽減される。
また、BREWは電話帳など携帯電話の基幹機能にアクセスできるのが特徴だが、一方でこれがセキュリティ上の弱点となる部分でもあるため、原則としてKDDIによる検証を経たアプリしか配布できなかった。.NETアプリは自由に配布可能なため、さまざまな用途に向けたより柔軟な応用が可能となるほか、検証などのプロセスが必要なく、開発から運用開始までの時間も短縮できる。
端末の基幹機能にアクセスできるというBREWの優位性を活かすため、業務アプリで必要性が高いと考えられる機能については、.NETアプリからも利用できるようなAPIを用意する予定。ただし、自由度が広がる代わりに、開発者やユーザー自身の手によってセキュリティを確保しなければならない部分が増えることになる。この点ではPC用のアプリと同じようなリスクを持つことになる。
通信企業から総合ソリューションベンダーへ
KDDIでは、今後の法人向け戦略として、既に用意された製品やサービスの中から必要なものを顧客に選択してもらうという従来の形態から、KDDI自身が顧客の業務に応じた製品・サービスを事前に組み立て、運用・管理の請負までを含めたトータルソリューションとして提案する形へ進化させるという方針を打ち出している。
言い換えればこれまでは、あくまで通信企業として回線をいかに契約してもらうか、契約した回線をいかに使ってもらうかという視点で、端末やサービスのラインアップを拡大し、メニューとして顧客に提示していたのに対し、今後は“顧客の業務を支援すること”そのものをKDDIの生業に位置づけ、そのために同社が持つさまざまな商品群を活用し、既存製品で足りない部分は個別にカスタマイズしていくという考え方に転換する。
固定から無線までをトータルで提供できる強みを生かすために、より法人顧客のニーズをくんだソリューションを提供できるよう体制を整える
以前の考え方であれば、構内PHSなど同社が手放した技術をサポートする必要はないかもしれない。しかし、顧客がインフラとしてそれを保有しており、今後も活用することが顧客のビジネスにとってプラスになると考えられるのであれば、足回りはau網や無線LANにこだわるのではなく、PHSも当然選択肢の中に入ってくる。アプリケーションについても同じで、すべてをBREWの世界だけで実現する必要はない。
従来は半ば“暗黙の了解”の下に受け入れられていた「通信キャリアの都合」を見直し、柔軟に対応することで、法人市場におけるKDDIは通信企業から総合ソリューションベンダーへの脱皮を図ろうとしているように見える。