プレゼンスやIM,IP電話を導入,最適なツールを使い分ける
三つのポイント
(1)意思疎通の迅速化のためプレゼンスやボイス・メールを導入
(2)プレゼンスとIP電話を連携させクリック・トゥ・ダイヤルを実現
(3)本社の全フロアで業務を行えるように無線LANを配備
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/JIREI/20090107/322363/?ST=network
エスエス製薬の前身である漢薬本舗は1765年に東京・八重洲で創業した。現在はドイツの製薬大手ベーリンガーインゲルハイムの傘下で,かぜ薬「エスタックイブ」や栄養ドリンク「エスカップ」など,一般消費者向けの製品に特化して事業を展開中だ。従業員数は2008年6月末時点で1018人である。
製薬業界は再編などを伴う厳しい競争に直面している。その中でエスエス製薬はITを活用していかに業務のスピードを上げるかに重点を置く。そのためのツールを従業員へ提供するのが情報システム部門の役割の一つだ。
2008年4月に本社を現在のビルへと移転した際に,様々なコミュニケーション・ツールや技術を採用。「プレゼンス」や「インスタント・メッセンジャ」(IM),「IP電話」,「無線LAN」などを導入・整備した(図1)。
図1●エスエス製薬新本社のLAN
全フロアで無線LANの利用が可能。実際はエッジ以外のスイッチはすべて2重化してある。
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合計400人がプレゼンスを利用
プレゼンスは在席情報などをネットワーク経由で他のユーザーへリアルタイムに伝達する機能である。例えばコンシューマ向けの「Windows Live Messenger」などはプレゼンス機能を備えており,既に多くのユーザーを獲得している。ただ,企業内での普及率は高くない。
だが,エスエス製薬は,「仕事のスピードを上げたい」(山本範明執行役員情報システム部長)との考えから,率先してプレゼンスを活用。本社では内勤180人,営業170人,千葉県成田市にある研究所「ライフサイエンスインスティチュート」では50人が利用する。プレゼンス機能を導入するため,同社はマイクロソフトのプレゼンス・サーバー「Office Communications Server」(OCS)とそのクライアント「Office Communicator」を採用した。
マイクロソフト製品を選んだ理由は,同社がマイクロソフトの企業内ポータル・サイト・システム「SharePoint」を利用していたためである。同システムと連携できるプレゼンス製品が望ましいと考えた。加えて,「Word」や「Excel」などのOffice製品との連携が可能な点も評価した。
写真1●エスエス製薬情報システム本部ITサービスマネージメント部の井坂吉宏次長 プレゼンスの導入はスムーズだったという。「以前の本社ビルは5フロアだったが,新本社ビルは7フロア。オフィスが分割された感が強くなったこともあり,プレゼンスは有効に使われている。現場からは『便利だ』との声も聞こえてくる」(情報システム本部ITサービスマネージメント部の井坂吉宏次長,写真1)と説明する。
エスエス製薬ではこれまでも一部の従業員がフリー・ソフトのIMである「IP Messenger」を使っていた。そのためIMの利便性を認識している従業員が多く,Office Communicatorも若い従業員を中心にすぐに使われ始めたという(写真2)。
写真2●「Office Communicator」の画面
企業向けのIMである。
IP電話とプレゼンスを連携
IP電話は本社に340台導入し,ボイス・メール機能を持たせた。
IP電話システムはシスコシステムズの製品を使う。「複数のメーカーのシステムを検討したが,OCSとの連携や相性を重視した結果,シスコの製品が最も組み合わせやすかった」(井坂次長)からだ。IP電話の呼制御サーバーは,「Cisco Unified Communications Manager」(CUCM)を,IP電話機は「Cisco Unified IP Phone 7961」を採用している。
業務アプリケーションやメール・サーバーなどはデータ・センターに置くが,OCSやCUCMなどのプレゼンス/IP電話関連のサーバー群は本社に設置する(図2)。電話は停止すると業務への影響が深刻である。そのため,信頼性にも十分配慮した。ネットワーク機器は各フロアに設置したエッジのスイッチ以外,すべてアクティブ-アクティブの構成で2重化し,冗長性を確保している。
図2●エスエス製薬の社内ネットワーク
新本社への移転に併せて本社にIP電話とプレゼンス・システムを,千葉県成田市にあるライフサイエンスインスティチュートにプレゼンス・システムを導入した。
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OCSとCUCMを連携させるために「Cisco Unified Presence Server」も導入した。これはOCSとCUCM間でSIPのプレゼンス情報などをやり取りするためのゲートウエイ機器である。OCSとCUCMを連携させることで,IP電話で通話中の場合は,Office Communicatorのプレゼンスのステータスを自動的に「通話中」に変えられる。
さらに,OCSとCUCMを連携させることで,「クリック・トゥ・ダイヤル」を実現した。利用しているメール・クライアント「Outlook」の電話帳に登録されている電話番号であれば,右クリックだけでパソコンからIP電話の発信操作ができる(図3)。もちろん,パソコンから電話番号を入力したり,コピー&ペーストすることでも発信可能だ。
図3●マイクロソフト製品とシスコシステムズのIP電話機を連携させた
OutlookなどOffice製品からの電話発信を実現している。IP電話やプレゼンスのプロトコルにはSIP(session initiation protocol)を使う。
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このように,エスエス製薬ではプレゼンスを中核としながら電話やメール,IM,ボイス・メールといった性質の異なる複数のコミュニケーション・ツールを用意する。
性質の異なるツールを使い分ける
これらは手段という点では音声を使う電話/ボイス・メールと,文字を使うメール/IMに分類できる。さらに,リアルタイムでコミュニケーションをする電話と,非リアルタイムのメール/ボイス・メール,両方の使い方ができるIMに分けられる。そして,それぞれ一長一短がある。
この環境の下,社員は常に最適な手段を使い分けて連絡を取れるようになった。例えば,緊急性の高い場合は電話で連絡を取り,記録を残しながら議論したい場合はIMを使う,といった具合である。山本執行役員は「体感的にもコミュニケーションの効率が上がった。どのツールが最適かはすぐに学べる」と導入の効果を説明する。
全フロアで無線LANが使える
手段やリアルタイム性だけではなく,コミュニケーションの場所の自由度を上げるための施策も行った。
本社にはIEEE 802.11b/gのシスコ製無線LANアクセス・ポイントを20数台設置。本社内のどこにいても社内ネットワークに接続できるようにした。
写真3●本社ビル内に和風の部屋を用意
無線LANによってどこにいても仕事ができるようにした。 これにより,本社ビル内に用意した和風の部屋からでも無線LAN経由で社内の各種システムを利用できる(写真3)。いろいろな場所で仕事ができれば社員にとっては気分転換になるほか,社員同士のコミュニケーションの活性化が期待できるという。
現在,プレゼンスやIP電話などを使うのは本社と研究所のみだが,今後は,「同じ環境を他の事業所にも展開したい」(井坂次長)としている。まずは物理的なインフラの増設を必要としないプレゼンスを全事業所に導入する計画だ。IP電話は専用のLANを増設しつつ,順次展開するとしている。
また,08年内にはマイクロソフトのグループウエア・サーバー「Exchange Server 2007」の利用を開始する。同サーバーが導入されれば,ユーザーが設定した「予定表」の内容をOffice Communicatorのプレゼンスに反映することが可能になる。
ビデオ会議でトップの声伝える
プレゼンスやOffice Communicatorは東京本社と成田市の研究所間でも利用している。本社-研究所間ではこれらに加え,マイクロソフトのWeb会議ソフト「Live Meeting」を使う。
Live Meetingは今後も拡張する予定で,工場などでの利用を考えているという。また,マイクロソフトが開発する360度のパノラマ映像でビデオ会議ができるカメラ装置「Round Table」の導入も検討している。
一方で据え置き型のビデオ会議システムも導入している。「月1回,社長が社員へメッセージを送るといった用途で使っている」(井坂次長)。2005年に現在の社長が就任した際,全拠点へ直接メッセージを使えたいという要望に応えたもので,ポリコム製の機器を全拠点に導入した。
多拠点で同時にビデオ会議を実施するには,多地点接続ユニット(MCU)が必要となる。同社ではMCUを自社内に設置する代わりに,NTTビズリンクの多地点接続サービスを利用する。これは,NTTビズリンクのビデオ会議専用ネットワークを介して拠点間を結ぶサービスである。
IP-VPNで全拠点を接続
本社と各拠点はNTTコミュニケーションズのIP-VPNサービス「Arcstar IP-VPN」で接続。エスエス製薬のWANは同IP-VPNを中心に本社と全国18拠点がつながる。アクセス回線にはイーサネット専用線やBフレッツ,メガデータネッツ,ADSLを採用。拠点間の内線通話にはNTTコミュニケーションズのIP電話サービス「.Phone IP Centrex」を利用中だ。
WANは2重化の実現が今後の課題である。現在はバックアップとしてISDNを使っているが,障害発生時にはやや心許ないという。
IMやボイス・メールで意思決定のスピードを上げる
山本 範明
エスエス製薬 執行役員 情報システム本部長 プレゼンスやIM,ボイス・メールを導入したのは,意思決定のスピードを上げるためだ。例えば,あるプロジェクトでこれまで1日1往復のコミュニケーションだったものを,1日3往復にできれば,意思決定までの時間は確実に短縮する。
従業員は電話のような音声の同期型ツールと,メールのような文字の非同期型ツールに加え,IMという同期型と非同期型の中間程度のツール,そしてボイス・メールという音声の非同期型ツールも使える。つまり,コミュニケーションの手段が増え,プレゼンスを見ながら常に最適なツールを選択できる。実際,体感的にコミュニケーションの効率はかなり上がっている。
プレゼンスは他社ではあまり使われていないようだが,それはビジネス上の価値を社内で説明しにくいからだろう。投資額に対するコスト削減効果などの数値を求められると少し苦しい。
弊社の場合は本社移転があったのでそれに併せて導入できた。経営会議でも「こういう機能を入れます」と説明し,必ず社内のコミュニケーション効率が良くなると言い切った。
コミュニケーション・ツールという点では,今年前半にスマートフォンも評価した。社外に出ることが多いマーケティングやセールス部門で使うためだ。ただ,現時点では性能や機能が中途半端に思えた。そのため,まだ導入するには時期尚早と判断した。パソコンで動いている受注用の業務アプリケーションをスマートフォン上で動かせないかと考えたが,受注時には複雑なルールがある。それらをスマートフォン上のアプリケーションに実装するのは難しかった。
営業担当者は3Gカードとノート・パソコンを持ち歩いている。将来的に無線データ通信の速度はまだまだ上がりそうだ。そうなるとノート・パソコンで使うアプリケーション自体を変えていく必要があるだろう。ただ,どのように変えるのかはまだ分からない。
今後は,親会社の独ベーリンガーインゲルハイムのITインフラやアプリケーション資産を活用したい。具体的には,親会社のサーバーで動くアプリケーションの利用を増やすとか,場合によってはデータ・センターの統合もあり得る。親会社はグローバルでIT要員が1300人もいる。利用できるところは利用したいと考えている。
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(武部 健一=日経コミュニケーション) [2009/01/21]