無線LANの干渉を測れ【後編】
無線LANのパフォーマンスは「干渉」に大きく影響される。今回は距離や無線LAN以外の電波――例えば電子レンジ――が無線LANのパフォーマンスにどういった影響を与えるかを検証する。
[東陽テクニカ,ITmedia]2008年11月04日 08時00分 更新
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/0811/04/news011.html
干渉と距離の関係は?
前回までで、空いているチャンネルがない場合、チャンネルをずらす、出力を変えるといった設定でパフォーマンスを確保するのは難しいことが分かった。しかし、少し大きなビルである程度のエリアをカバーしようとすると、アクセスポイントは複数台必要となる。建物の中ですべてのアクセスポイントに対し同一のチャンネルを使用しないよう設定することは現実問題として不可能である。しかしながら、距離が離れたり、壁や床、障害物などの影響によって信号は減衰する。そのため、アクセスポイントを十分離すことによって同一のチャンネルを干渉することなしに使用することができる。そこで、次に無線LAN環境間の距離による干渉の差について測定を行った。
干渉と距離の関係を測れ! ――干渉量測定実験
この実験でも使用する環境はいままでと同様である(リスト1)。チャンネルはWLAN1、WLAN2ともに1chに固定とし、アクセスポイントの出力は100%とした。実験では、Azimuthの減衰器(アッテネータ)をソフトウェア的に制御し、それぞれの無線LAN環境間で伝搬される信号の減衰量(パスロス)を変化させてそれぞれが送信できるフレーム数を測定した。
使用するチャンネル:WLAN1、2ともに1ch
使用する出力:WLAN1、2ともに100%
使用する無線LAN規格:
1.IEEE802.11b同士
2.IEEE802.11g同士
3.IEEE802.11g(WLAN1)と11b(WLAN2)
使用フレームサイズ:1518バイト
各無線LAN規格の組み合わせに対し、各WLAN間で伝達される信号の減衰量を変化させパフォーマンスを測定する
リスト1 干渉量測定実験概要
実験結果
干渉量測定実験結果 実験の結果は図1~3のようになった。まず、パスロスが115dBの場合、11b同士、11g同士、11bと11gのいずれのケースでも干渉の影響はほとんどなくなり、理論上の最大値に近い速度で通信できている。前回行った実験では、パスロスが105dB以上になるとアクセスポイントとクライアントの間でリンクが維持できなくなっていたが、それよりもさらに10dB離す必要があるという結果である。
アクセスポイントと無線LANのネットワークインタフェースカードの間のパスロスと、アクセスポイント間のパスロスを同列に論じることに異を唱えられることもあると思うが、いずれにせよ相当離さないと干渉の影響はなくならないことが確認された。
11b同士、11g同士ではおおむねパスロスを大きくするほどパフォーマンスは向上しているが、パスロスが95dB前後の場合のみ、その前後に比べてパフォーマンスは悪くなっている。これは、距離が中途半端に離れることでCSMA/CAのメカニズムが機能しにくくなるためと考えられる。従って、チャンネルに空きがない場合、一番弱く見える無線LANと同一のチャンネルを選択するというのは必ずしも正しい選択とはいえない。
また、11bと11gの混在環境では、パスロスと通信速度の間に明確な関係は見られず、それぞれの通信速度が大きくばらつく結果となった。実験はあくまでAzimuth中の理想的な環境で行っているため現実の世界でどうなるかは分からないが、11bと11gが混在する環境では注意が必要かもしれない。
無線LAN以外の電波との干渉
ここまで無線LAN同士の干渉について議論してきたが、今度は無線LAN以外の電波との干渉について考えてみよう。実は、11bや11gが使用している2.4GHz帯の電波を使用する機器は意外に多い。「無線LANと電子レンジは同じ周波数帯を使っている」という話はよく知られているが、電子レンジのほかBluetoothやコードレスフォン、さらにコードレスの監視カメラなども2.4GHzの電波を発する。よって、これらの機器は当然11bや11g規格を使用する無線LAN(11b/g)と干渉を起こす可能性がある*。なぜなら、無線LANのノードは無線LANのフレームの存在を確認しなくとも、ある一定レベル以上の受信電力レベルが認められれば伝送媒体が使用中であると判断し、フレームの送信を見合わせるからだ。ここでもCSMA/CAのメカニズムは有効である。また、送信されたフレームがこれらの電波により破壊されることもある。
これらはともに無線LANに対する干渉であり、当然パフォーマンスに影響するはずである。そこで、最後に無線LAN以外の電波による干渉の影響を測定してみよう。
電子レンジの無線LANへの影響を測れ――電子レンジ実験
本実験では無線LAN以外の電波発生源として電子レンジとBluetoothを用意したが、残念ながらこれらはAzimuthへは組み込めない。そこで、東陽テクニカのセミナールームに図4のような実験環境を用意し、実験を行った。
図4 電子レンジ実験環境
ここまでの実験ではAzimuthを使用して無線LANカードが受信した単位時間当たりのフレーム数を測定してきたが、無線LANクライアントとして普通のPCを使用する場合、単位時間当たりに受信したフレームを測定することは難しく、また無線LAN上での測定は正確でない可能性がある。そこで、図4に示すように受信したフレームをイーサネット上にルーティングするように工夫して、イーサネット上で測定を行った。なお、事前に無線LANクライアントが十分余裕を持ってルーティングできることは確認済みである。
実験の概要はリスト2のとおりである。1/6/11chに対してそれぞれ実験を行い、チャンネルの違いによる影響の差も調査した。測定は1回の試行を300秒間とし、その間に測定されたフレームをカウントして単位時間当たりのフレーム数を算出した。また、Bluetooth通信は2台のPCにBluetooth USBアダプタを装着し、ファイル転送を行うことで電波を発生させた。
使用するチャンネル:WLAN1、2ともに1/6/11ch
使用する無線LAN規格:WLAN1、2ともにIEEE802.11g
使用フレームサイズ:1518バイト
試行時間:300秒
試行回数:3回
干渉電波源:
電子レンジ:スイッチON
Bluetooth:ファイル転送による通信
干渉電波がない場合と、電子レンジ/Bluetoothによる干渉電波が発生している場合でパフォーマンスを測定する
同時にスペクトラムアナライザを用いて電子レンジやBluetooth機器が発する電波のスペクトラムも測定する
リスト2 電子レンジ実験概要
実験結果
3回の試行による平均値をグラフにしたものが図5である。また、それぞれの測定値を表にしたものが表1だ。11chでBluetooth使用時の平均通信速度が干渉電波なしの場合よりも速くなっているが、これは干渉電波なしの試行で極端に通信速度が遅いものがあったためであり、実際にはそれほど大きい差は見られなかった。また、電子レンジの場合には試行ごとにばらつきが大きく、2割から4割程度、受信できたフレームが減少した。チャンネルごとで比較すると、特に11chが大きな影響を受けていることが分かる。
電子レンジ実験結果(試行3回の平均値) チャンネル 試行 干渉電波なし 電子レンジ Bluetooth
1ch 1回目 2387 1882 2337
2回目 2397 2121 2321
3回目 2400 2069 2320
平均 2395 2024 2326
6ch 1回目 2259 2047 2185
2回目 2263 1802 2088
3回目 2287 1584 2147
平均 2270 1811 2140
11ch 1回目 2162 1298 2167
2回目 1969 1571 2261
3回目 2141 1166 2136
平均 2091 1345 2188
表1 電子レンジ実験結果(詳細)
次に、電子レンジのスペクトラム(図6)を見てみよう。電子レンジのスペクトラムでは11chに相当する周波数帯にパワーのピークがあることが確認できるが、これが結果に関係していると考えられる。また、測定時の最大値(上のライン)と平均(下のライン)が示されているが、この間に開きがあることも分かる。これは、電子レンジが常に電波を出すのではなく、電波のON/OFFを繰り返していることを反映していると思われる。ただし、出力や電波の漏れ具合、発するスペクトラムが同じというわけにはいかないので、一概にすべての電子レンジで同様の結果となるとは限らない。
また、Bluetoothでは周波数ホッピング(一定の周期で搬送波の周波数を切り替えて通信を行う技術)を用いているため、スペクトルは図7のようにくしの歯のようになる。こちらは無線LANで使用する周波数帯のほぼ全体にピークがかかっているものの、測定結果からはBluetoothによる干渉の影響はほとんど認められなかった。
まとめ
今回は無線LANの干渉についてさまざまな実験を行った。無線LAN同士の干渉では、条件によってはほとんどフレームの送信ができないケースも出てきたので、少々驚かれたかもしれない。
無線LAN同士の干渉について今回行った実験では、実験結果の考察を容易にするために試験対象を単純化している。無線LANシステムは2セットだけ用意し、生成されるフレームはアクセスポイントから無線LANクライアントに送信されるものだけである。しかし、現実の世界では多くの無線LANシステムが存在し、アクセスポイントに何台もクライアントが接続しているので非常に複雑だ。
さらに、例えばファイルサーバから無線LANクライアントがファイルをダウンロードするなど、実際の通信ではクライアントからTCPのACK*が返るため、アクセスポイントから無線LANクライアントへ完全な一方通行、という通信はほとんどない。また、TCPなどの上位層のプロトコルがパフォーマンスに与える影響も考慮しなければならないので、事態はより複雑になる。
ほかにも、実験ではアクセスポイントから無線LANカードに対して可能な限り大量にフレームを送信するようにセットアップしているが、現実にはこのような状態は常に起こっているわけではない。
このように、実験結果は特殊な環境でテストしたものなので、必ずしも現実世界で得られるパフォーマンスを予言するものとはいえない。しかし、実験結果が無線LANの持つある特性を表しているのもまた事実である。実験からは無線LAN間の距離やチャンネルのずれ方が少し変わるだけで、パフォーマンスが大きく変わることが分かった。よって、実環境でもこまめなチューニングによってパフォーマンスを大幅に改善できる可能性がある。「無線LANのパフォーマンスが悪い」という状況になっても、「電波は目に見えないから」とあきらめず、さまざまな試行錯誤やツールを使った測定などによってパフォーマンス改善にトライしてはいかがだろうか。
次回予告
さて、前回、今回と無線LANについて理論的内容に基づく実験を行ってきたが、次回は実環境における無線LANを測ってみよう。無線LANの電波は実際にはどのように伝搬しているのか、また障害物によってどのように影響を受けるのだろうか。実際に測定する。