「PC遊び」が帰ってきた? 楽しいEee PC 901-X
ちょっとしたブームとなっている低価格モバイルPCだが、それの人気の元は価格や実用性ではなく、かつての自作PCブームを支えたのと同じ「PC遊び」なのではないか。
今日本のPC業界に大きな波紋を投げかけているのが、低価格モバイルPC、いわゆるNetBookである。多くは台湾メーカー製だが、HPやDELLといった米国企業も参入、ヨーロッパでは東芝も製品を投入するなど、活発な動きを見せている。
http://plusd.itmedia.co.jp/pcuser/articles/0809/29/news015.html
実際の売り上げシェアでは、6月までは5%を下回る程度だったが、6月7月に多くの製品が投入され、8月には20%近くまで伸びてきている。実際の価格は、店頭予想価格で6万円弱をうたってはいるが、ネット通販では5万円弱といったところである。
もともとNetBookは、発展途上国向けの最初の1台というコンセプトで登場したが、実際には先進国市場の2台目、3台目のマシンとして売れている。おそらく現在もっとも売れているのは、ASUSTeKの「Eee PC 901-X」だろう。日本ヒューレット・パッカードの「HP 2133 Mini-Note PC」はリリースが早かったこともあって注目を集めたが、いかんせん供給数を見誤ったこともあって停滞した。その隙にやれ発熱がすごい、バッテリーがもたないなどの情報が行き渡り、供給は再開したものの伸び悩んでいるようだ。
「Eee PC 901-X」(写真=左)、「HP 2133 Mini-Note PC」(写真=右)
ところでこのNetBook、ビジネスユースのモバイルノートとして使うのならば、もっといいPCが日本にはいくらでもある(もちろんそれなりに値は張るわけだが)。5万円PCだからこその使い方、それは、かつてのブームを支えた「PC遊び」なのではないか。
ディストリビューションの進化に立ち会う
筆者はEee PC 901-X(以下 Eee PC 901)を購入したが、最初から普通のサブノートとして使うという気はまったくなかった。NetBookの国内モデルは、ほとんどがWindows XPがプリインストールされているのだが、今更XPをいじくっても面白くない。海外モデルではUbuntu(Debian GNU/LinuxベースのLinuxディストリビューション)とXPが選べるので、やはりUbuntuを動かしてみたかった。
Ubuntuのインストール自体は、外付けCDドライブから起動するだけなので、それほど難しいものではない。ただEee PC 901の問題は、ネットワークと無線LANのドライバが標準的なディストリビューションに入っていないことだ。こういうことは、発売されて間もないPCにLinuxをインストールする際にはよくあることである。
日本でこの問題にいち早く着手したのは、CD-Rから起動するLiveCDの総本山とも言えるサイト、「ライブCDの部屋」である。最初は本家Ubuntuからの派生で、Eee PC用に独自チューニングした「EeeUbuntu」から始まった。まず有線ネットワークのサポートから始まり、無線LANも不完全ながら対応した。そして掲示板では、熱い接続実験リポートが次々とアップされていった。
筆者には自力で開発するスキルがないので、ただただ掲示板に書かれている手順を試し、1日1日と成果を上げながら成長していくノウハウを追っかけるのがやっとであった。だがそこには確かに、かつて忘れかけていた「なんとかこのハードウェアをうまく動かしたい」という思いを共感することができたように思う。
「ライブCDの部屋」の成果は、素晴らしいものであった。その後、無線LANドライバの単体リリース、カーネルのバージョンを上げても無線LANドライバなどを自動インストールする安定版EeeUbuntu、Mintの901対応版「eeeMint 5.0」、Xubuntuの901対応版「eeeXubuntu-lcr 8.04」など、多くのディストリビューションを輩出した。
さらには通常版Ubuntuやそれの派生ディストリビューション、例えばgOSなどにインストールするだけで901対応となる「カスタマイズキット」がリリースされ、選択肢が大幅に広がった。
筆者も実際にしばらくgOSを入れて使っていたが、一部のアプリケーションで画面が入りきれないといった不自由さはあったものの、Mac OS似のGUIは、使いやすかった。またGoogle Gadgetを、DashBoardのように使うアイデアは、なかなかおもしろかった。無線LANも普通に使えるだけでなく、イー・モバイルを使ったモバイルネットワーキングも可能だ。ブラウザはFirefox、メーラーはThunderbirdが普通に動く。
そうこうしているうちに、海外からEee PC 901に最適化されたカーネルが登場した。これにも「ライブCDの部屋」の管理人氏が対応した。現在はこのカーネルを使ったEeeUbuntuで、この原稿を書いている。
OS入れ替えが苦にならない現状
筆者がLinuxを触ったのは、約10年ぶりのことである。当時のLinuxは、Turbo、Vine、Plamoといったディストリビューションがしのぎをけずっていたが、まだまだハッカーとサーバ管理者のものという傾向が強かった。
だがこの10年で、ずいぶん事情が変わった。デスクトップOSとしても、充分に魅力的なOSに至ったと思う。以前はコマンドを知らないと基本的な設定やドライバのインストールもままならなかったが、管理ツールはGUI化が進み、自力でいろいろテストしながらの設定も可能になった。
同時にコマンドラインの動作もそのまま残っているのもいい。サイトの情報を見よう見まねでやる場合は、GUIよりも便利だ。コマンドラインをまるごとコピーして、はり付ければいいからである。
これらOSのインストールは、ただ入りました、なんか動きました、というだけでは面白くない。実際に仕事で普通に使えるレベルになってこそ、やる意義があるわけである。これまでOSを何度も入れ替えたが、実用上それほど苦にならなかったのは、以前よりもツールやデータの置き場がオンライン化したからだと思う。ローカルで動かすものは標準のもので充分だし、とりあえずFirefoxさえ動けばなんとかなる。
例えばブックマークは、もともとGoogle Toolbarのブックマークに預けっぱなしだし、メールはGmailにみんなコピーがある。他のPCとのファイル連携は、DropBoxでシンクロできる。スペシャルなアプリケーションを使う仕事は、別途もっとパワフルなマシンでこなせばいい。
実は使ってみるまで一番心配だったのが、日本語入力である。10年前は、当時標準の日本語入力システムでは変換効率が悪く、別途Wnnを購入してインストールしていたものだ。
しかし現在は標準的に使われている日本語入力システム「Anthy」もなかなか出来がよく、最初からそれほどハズさない候補があがってくる。キーアサインを多少変更しただけで、昔のように「辞書を鍛える」ような儀式は必要ないのがありがたかった。
いやもちろんEee PCは、OSの入れ替えだけでなく、ハードウェアの改造も盛んだ。SSDの換装といったオーソドックスなものから、内部にUSBポートを増設してSDカードをストレージとして使うといったものまで、さまざまな試みが成されている。ただここでは詳しくは触れない。
なぜならばデスクトップPCと違い、ノートPCではバッテリが絡むため、ショートによる発火や破裂などに対して十分な注意が必要だからである。電車の中でカバンからモクモク煙が出てきたら、どう考えてもキミの人生は劇的にマズいことになるだろう。ハードウェア的な改造を施したEee PCを持ち歩くときは、完全にシャットダウンする、バッテリを外すといった対応を取るべきだ。
PCで遊ぶ意義
今にして思えば、昔のアキバ的自作の「PCで遊ぶ」という感覚は、いろいろなパーツを実装してみて安定して動くかどうか楽しむという、知的好奇心を満足させることを意味した。クロックアップ、ペルチェ素子による冷却、水冷などさまざまな試みがなされたが、一瞬でもOSが起動すればOK、というところがゴールではなかった。基本は安定して動作するギリギリを探す、というところが、重要だったのである。
そこはやはり、「実用になるかどうか」の技術のせめぎ合いだったのだろうと思う。そしてNetBookの登場で、再びいろいろ乗っけてみて遊ぶという楽しみが、また復活するのではないかという気がする。ハードウェアからソフトウェアにこそ対象が変わったが、実用になるかどうか、は常にPC遊びのポイントである。
しかし舞台がノートPCに移ったことで、ベンチマークの意味もまた変わってくるだろう。これからのターゲットは、処理速度ではなく、バッテリの持続時間にシフトすると思われる。不要なハードウェア機能を殺し、シンプルかつ実用的な構成にできるか。そしていかに効率的な省電力設定を構築できるか。
そこにはソーラーカーを自作したり、鳥人間コンテストに参加したりといったモチベーションにも似た、チューニングの醍醐味(だいごみ)がある。時代はエコであり、究極のエネルギー効率を目指す世の中なのだ。
今はまだそこまで手が回っていないようだが、そのうちBIOSをいじる剛の者も出てくるだろう。今後のトラブル防止のために、OSを立ち上げずに正規のBIOSをインストールする方法をメモしておく。
1 まずBIOSのファイル名を、モデル名に合わせる。例えば現時点での公式BIOSの最新は「1502.ROM」だが、これを「901.ROM」にリネームする。このBIOSファイルをUSBメモリに保存。
2 USBメモリをEee PCに差し込んで現在のBIOSを立ち上げ、Boot - Boot Settings Configurationで「Quick Boot」と「Quiet Boot」をDesableに設定。F10で保存&再起動する。
3 起動時にALT+F2を押しつづけると、自動的にBIOSアップデート開始。
言うまでもないことだが、改造BIOSのインストールは自己責任で。
もっとも、単純にバッテリライフを伸ばす最善の方法は、普通にWindowsXPを使うということだったりする。しかしあえていばらの道を進むというのが、遊びの遊びたるゆえんであろう。
過去順調だった頃のPC業界は、こうしたユーザーの遊びが積み重なって、次のトレンドやPC業界あるいは社会全体への貢献が成されていった。こういうユーザー層があるうちは、PCはまだおもしろいことが起きる余地があるということだ。
腕に覚えのある読者諸氏も、もういちどNetBookでPC遊びを復活してみてはどうだろうか。