NGN時代のモビリティとセキュリティ(3):モバイルWiMAXの技術動向と応用分野
NGN(次世代ネットワーク)では、いつでもどこでも安心・安全にネットワークを介して生活、仕事ができるユビキタス社会の実現を目指しています。しかし、「いつでもどこでも」というモビリティ(移動性)を求めると、そこには「安心・安全」というセキュリティとのバランスも当然必要になってきます。本連載「NGN時代のモビリティとセキュリティ」では、モビリティを実現するさまざまな最新技術の動向と、セキュリティとのバランスのあり方について、現場の第一線で活躍される専門家の方に解説していただきます。
第3回は、沖電気工業株式会社 カントリー・ジェネラル・マネージャ代行ネットワークシステムカンパニー ユビキタスサービス本部 ワイヤレスソリューション部 担当部長の林 雅彦(はやし まさひこ)氏に、携帯電話よりもさらに高速な通信が可能な新しい通信方式として、世界的に注目されているモバイルWiMAXについて、説明していただきます。(文中敬称略)
http://wbb.forum.impressrd.jp/feature/20080731/654
第3回 モバイルWiMAXの技術動向と応用分野
≪1≫注目されるモバイルWiMAX
ここ10年におけるネットワークの大変革のトピックスの1つにモバイル・ネットワークの急激な発展がある。携帯電話は通話だけの利用に止まらず、メールやインターネット・アクセスが普及し、今や必需アイテムとなってきた。このようなモバイル・ネットワークにおいて、IPベースのモバイル・アクセス手段として、現在の携帯電話よりもさらに高速な通信が可能な新しい通信方式として、WiMAXが全世界的に注目されている。日本では、すでに全国モバイル・ワイヤレス・アクセス(MWA:Mobile Wireless Access)バンドの免許がUQコミュニケーションズ(※)に交付され(2007年12月)、つづいて固定系(FWA)地域バンドではCATV事業者など42社に免許または仮免許が交付(2008年6月)されており、2009年からの商用サービスが計画されている。図1に2.5GHz帯の周波数割り当て状況を示す。
※ KDDIが中心となって設立されたWiMAX通信事業者
http://www.uqcommunications.jp/index.html
図1 2.5GHz帯の周波数割り当て状況(クリックで拡大)
≪2≫モバイルWiMAXの通信方式
表1に、代表的なワイヤレス・サービスの通信方式を示す。
表1 代表的なワイヤレス・サービスの通信方式(クリックで拡大)
※ チャネル帯域幅は10MHz、下りは2×2MIMO、上りは1×2コラボラティブMIMOを想定
WiMAXには、固定無線アクセス用として規定されたIEEE 802.16-2004規格をベースにした固定無線アクセス用の固定WiMAXとIEEE 802.16-2004のWirelessMAN-OFDMA無線インタフェースを修正・補足したIEEE 802.16e-2005・モバイルWiMAXがある。モバイルWiMAXは、携帯電話(2G~3.5G)でのデータ通信に比べて伝送速度が速く、Wi-Fi(無線LAN)に比べて最大通信距離が長いという特長をもつ。また、高速(120km/h)での移動中でも通信ができ、かつハンドオーバー(基地局の切り替え)を行うことが可能である。また、ITU-R(国際電気通信連合・無線通信部門)では、2013年頃を目指してIMT-Advanced(4G)の標準化が行われる予定である。このIMT-Advancedの標準規格を見据えてモバイルWiMAXとの互換性を満たすための検討プロジェクトが「P802.16m」として開始されている(2006年)。802.16m規格は、802.16e規格と同じく6GHz以下の免許バンドを使用し、高速移動時にも100Mbps以上のスループットを達成することを目標にしている。
≪3≫モバイルWiMAXの特性と位置付け
図2に、代表的な無線通信とモバイルWiMAXの位置づけを示す。
モバイルWiMAXは、既存の移動通信方式(3G)と比較して、伝送速度が速く、ビットあたりの通信コストを低減できるなどのコスト効果が見込めるため、定額制モバイルデータ通信サービスの実現が期待されている。
一方、第3世代携帯電話(3G)のデータ通信は、現状ではモビリティは高いが使用できる伝送速度が不足している。(注)
また、無線LANの場合は、伝送速度は速いがモビリティが不足する。
このように、現状においてモバイルWiMAXは、3Gや無線LANなどの領域を補完する位置付けにあるが、すでにITU-Rにおいて、3Gの第6番目の陸上無線インタフェースの国際標準として承認されているところから、今後はさらにそのカバレッジを拡大していくと期待されている。
(注:伝送速度については、3.9GのLTEなどで高速化が予定されている)
図2 モバイルWiMAXの特徴(クリックで拡大)
≪4≫モバイル・サービス市場
モバイルWiMAXは、以上のような特性・位置付けを持ち、またライセンス(免許必要)・バンドでのサービスであるため、通信事業者主導で推進されている。図3は、市場とモビリティの軸から見たモバイル・サービスとそれぞれのサービスで利用が期待されているモバイルWiMAX端末の位置づけを示している。
図3 サービスと端末の市場(クリックで拡大)
〔1〕コンシューマ向けサービス市場
モバイルWiMAXによるモバイル・サービス市場では、まずはモバイルWiMAX PC(/Express)カード/USBドングルを装着したPCでの移動インターネット・アクセスからの利用がスタートすると考えられる。PCについては、WiMAXカードを標準搭載したモデルへと進んでいくだろう。また、すでに一般に広く普及しているWi-Fiを搭載したPCなどの機器で、WiMAXを介したブロードバンド通信を可能とするWiMAX-Wi-Fi GW(Gateway)なども発表されている(*2)。今後、図4に示したような機器が登場することによって、携帯ゲーム機、携帯プレーヤやPDA・スマートフォンでのインターネット・アクセス、オンラインゲーム、動画・音楽ストリーミング視聴等が可能になる。
さらにWiMAXカードの小型化・低消費電力化が進み、デュアル(3G/モバイルWiMAX)携帯電話機やWiMAX機能を内蔵した携帯ゲーム機、携帯プレーヤやPDA・スマートフォンが登場してくると予想される。
図4 WiMAXに対応した機器(クリックで拡大)
また、モバイルWiMAXが定額で利用できるようになれば、今まで速度や料金の問題でネットワークに接続されなかったいろいろな機器においても、ブロードバンド・サービスの利用が進展していくとみられている。例えば、自動車に搭載されているさまざまな情報機器は有力なモバイル端末で、例えば、図5に示すように、カーナビゲーション・システムとWiMAX通信機能が組み合わさることによって、地図情報更新、インターネット・アクセス、情報検索・配信、インターネット電話等の利用や、ホームサーバとの連携でコンテンツの共有等が可能となる。また、速度情報、位置情報やワイパー動作情報等を送信し、渋滞・事故情報や天候情報などの交通情報の生成に利用すること等ができる。
さらに、電車、バス、タクシーなどの公共の乗り物内での公衆無線LANスポットサービスも登場するであろう。
図5 カーナビゲーション・システムとWiMAX通信機能の組み合わせの例(クリックで拡大)
〔2〕エンタープライズ市場
モバイルWiMAXは、映像の伝送、例えば移動しながらのモニタリングや臨時に設置するカメラ監視・TV局の中継、屋外での臨時ネットワーク・アクセス等に利用されるだろう。さらに、広告表示装置への動画コンテンツのリアルタイム更新、例えばバスやタクシーでの乗客や路上の人への動画広告や移動式電子ポスターでの利用、自動販売機での街頭広告等のM to M(Machine to Machine)通信が拡大すると考えられる。
また、ワークスタイルの変化によって、在宅勤務やモバイル・ワーカー向けの企業イントラへのリモート手段としても期待される。
〔3〕公共サービス市場
地方自治体では、住民への広報サービス・保健福祉情報等の情報提供サービスでの利用やデジタル・デバイド解消が考えられている。さらに、防災の見回りや災害把握時の業務連絡・住民への動画像による緊急連絡での利用も考えられる。
≪5≫モバイル・ブロードバンド通信とセキュリティ
『第2回 無線LANの安全性を支える標準技術「802.11i」』でも説明したように、無線ネットワークは、セキュリティが大きな課題となっているが、モバイルWiMAXの場合のセキュリティはどうなっているのだろうか。
モバイルWiMAXは、接続時に端末(デバイス)認証・ユーザー認証が行われ、その結果に従って無線区間は強固な暗号化が行われる。また、アクセス・ネットワーク(ASN(※)、CSN(※))では、通信事業者内の保護されたネットワーク上にトンネルがはられて通信が行われる(図6)。このため、モバイルWiMAXによるアクセス・ネットワークは、セキュアなネットワークとなっている。
※ ASN:Access Service Networ
※ CSN:Connectivity Service Network
図6 モバイルWiMAXのセキュリティ(クリックで拡大)
※ BS:Base Station、基地局
※ ISP:Internet Services Provider、インターネット・サービス・プロバイダ
※ AAA:Authentication、Authorization、Accounting、認証、許可、課金
※ GW:Gateway
※ HA:Home Agent
しかし、WiMAXの通信において、WiMAXネットワーク内はセキュリティが確保されていたとしても、セキュリティがそれほど高くないインターネット側からのアクセスについては考慮する必要がある。特に、エンタープライズや公共サービスでの利用においてはセキュリティが重要となるため、WiMAXを利用する端末や企業側においてはファイアウォールなどのセキュリティの対処が必要となる。
携帯電話によって、生活スタイルやワークスタイルが劇的に変化したように、モバイルWiMAXの登場によってネットワーク・アクセスの機会・場所が広がり、社会環境はさらに変化していく可能性が高い。その分、悪意のアクセスに遭遇する可能性も高くなり、よりセキュリティの確保が重要となる。端末メーカーは、より小型化・高機能化していくことはもちろんであるが、セキュリティへの対処を行うことが重要となる。また、ユーザーにおいても、セキュリティへの意識を十分に持ち、利用する通信形態に合わせてセキュリティ機能を有した機器の選択を行う必要がある。
一方、携帯電話の流れから、第3.9世代といわれるLTE(Long Term Evolution、3Gの長期的な高度化システム)などの開発も活発化しており、モバイルWiMAXとともに大きな注目と期待が寄せられている。
参考文献*1 庄納 崇:「WiMAX教科書」2008年7月、インプレスR&D発行
*2 林雅彦他:「次世代のモバイル・サービスWiMAXによるブロードバンド無線アクセス」沖テクニカルレビュー第210号Vol.74、2007年4月
プロフィール林 雅彦(はやし まさひこ)
現職:沖電気工業株式会社(OKI)
ネットワークシステムカンパニー ユビキタスサービス本部 ワイヤレスソリューション部
担当部長
1980年 沖電気工業株式会社 入社。パソコン通信用アナログモデム、ISDN TA、ADSLルータ、Wi-Fiルータ、VoIP Gateway等の企画・開発を経て、現在、VoWLAN用Wi-FiアクセスポイントやWiMAX端末の プロダクトマネージメントに従事中。