コンセントに差すだけの高速ネット「PLC」
部屋じゅう、LANケーブルがのたうつのは見苦しい。無線LANを敷けば、問題は解決するが、設定に自信がない。離れた部屋には、無線が届きにくく、せっかくの高速回線を生かし切れない。セキュリティー面も心配。ならば、電力線通信(PLC)はどうだろう。電源コンセントにつなぐだけで、手軽に家庭内LANが組める新技術だ。
http://waga.nikkei.co.jp/comfort/computer.aspx?i=20070419g1000g1
「PLC」とは「パワー・ライン・コミュニケーション」の略。家庭内の電力線をインターネットの通信回線として転用できる技術のことだ。専用機器をコンセントにつなげば、それだけでネットにつながり、配線変更や追加工事は必要ない。2006年10月から屋内限定で解禁されたばかりで、2007年は「PLC元年」となりそうだ。
松下電工は5月21日、家庭の電源コンセントを使って高速なインターネット接続が利用できる機器セット「PLCタップ」を発売する。使い方は電源コンセントに差し込むだけ。最大190Mbps、実効速度80Mbpsの高速通信が可能だ。同社は「無線LANより高速」と、速度減衰が無線LANよりも小さい点をアピールしている。
PLC通信の場合、同じ電力線に別の電気製品がつながっていると、ノイズや相互干渉の影響を受け、通信速度が下がることがあり得る。しかし、「PLCタップ」にはノイズフィルター機能を内蔵し、ほかの電気製品から出るノイズが引き起こす通信速度の低下を抑える。壁や家具などの障害物のせいで、無線LANが実力を発揮しにくい室内構造でも、どの部屋にもあるコンセント経由でデータ通信ができる。追加の配線工事は不要だ。希望小売価格は1台2万3300円。
松下電工の「PLCタップ」
イメージとしてはコードレス電話機の親機と子機の関係が近いだろう。現実的な設置例は、光ファイバー回線やADSLのモデム、ルーターが置いてあるリビングルームの電源コンセントに「PLCタップ」の電源プラグを差し込み、本体にLANケーブルを差し込む。この「PLCタップ」が親機となる。後は書斎や寝室、子供部屋など、新たにネット接続したい部屋で、コンセントに子機となる「PLCタップ」をつなぎ、パソコンを接続する。この「差し込む+差し込む」の繰り返しだけで、ネット接続が手に入る仕組みだ。
無線LANと違って、機器の購入前・後に「勉強」の必要がほとんどないのがありがたい。オーディオや映像機器ではケーブルを差せばつながるが、LANの場合、そのほかに設定という余計な手間が生じることがしばしばあり、取扱説明書を読まされることが珍しくない。
ただ、高速回線につなぎたいだけのために、パソコンや回線機器に明るくない者にとっては分かりづらい説明書を読むのはおっくうだ。光通信や無線LANをせっかく用意しながら、使いこなせないでいる世帯は意外に多い。PLCは「差すだけ」という直感的な設置手順で、「LAN難民」に支援の手を差し伸べる。
「電力線を伝って個人情報がお隣さんに漏れてしまわないか」という心配は無用だ。本体の「かんたん設定ボタン」を押すだけで、親機・子機の認証が設定され、あらかじめ組み込まれている暗号化技術で隣家への情報漏れを防いでくれる。無線LANの場合はここで面倒な設定作業が生じるケースがあるが、「PLCタップ」はワンボタンだ。最近の無線LAN機器はワンタッチに近い手軽な設定を用意してきているが、素人には本当にセキュリティーが確立しているかどうかを確かめにくく、潜在的な不安を感じる人が少なくない。
無線LANは機能が向上してきたとは言え、実際に使ってみると、結構、接続場所ごとの速度低下が気になる。特に壁の厚い部屋や地下室では速度がダウンしがちだ。屋内構造の影響をほとんど受けないPLCは安定した速度確保という点で無線LANに勝ると言えるだろう。
「PLCタップ」はAC電源コンセントが3口付いている。内蔵のノイズフィルターはこの3口にも効果を発揮するので、このコンセントにパソコンや携帯電話充電器をつなげば、通信速度の低下を防げる。
パソコン周辺機器に強いバッファローもPLC導入セットを4月に売り出した。親機・子機各1台セットの「PL-HDP-L1/S」は希望小売価格が2万1000円。増設用の子機「PL-HDP-L1」は1万3600円だ。 松下電器産業、アイ・オー・データ機器、NTT東日本などもPLCアダプターを発売済みだ。
左から、バッファローのPLC導入セット、NTTネオメイトのPLCアダプター、アイ・オー・データ機器のPLCアダプター
PLCを生かした音響機器も登場した。パイオニアが発売する「ミュージックタップ」はPLC経由で家じゅうに音楽を伝えるスピーカーシステムだ。スピーカーのプラグをコンセントに差し込むだけで、どの部屋でも同じ音楽を再生できる。
パイオニアが発売する「ミュージックタップ」はPLC経由で家じゅうに音楽を伝えるスピーカーシステム
リビングルームで再生しているお気に入りの音楽を、書斎や寝室でも鳴らせる。もちろん、コンセントさえあれば、2階・3階の離れた部屋や、屋根裏スペース、キッチン、トイレ、脱衣コーナー、玄関などでも、スピーカーケーブルの配線なしで、音楽が届く。好きな音楽に包まれて暮らしたい人にとっては、検討の余地がある画期的な発想の商品だ。陶器を思わせるつや消しホワイトのデザインはどの部屋にも違和感なくなじみそうだ。2006年度グッドデザイン賞で金賞を受けている。
PLCアダプターをレンタルするプロバイダーも増えている。電力系通信会社ではケイ・オプティコムや中部テレコミュニケーション(名古屋市)が光ファイバー通信回線サービスの加入者向けに、PLCアダプターの家庭向けレンタルサービスに乗り出している。
面白いのは、小型スピーカーに人の動きを感知するセンサーが組み込まれている点。部屋に入った瞬間、センサーが入室を感じ取り、あらかじめ決めてある機器から音楽が流れる。玄関に人が近付くと、自動的に灯りがつく照明システムに近い感覚だ。店頭実勢価格は1セットで7万円を切る程度と見られる。
いいことずくめに見えるPLCだが、気を付けたい点もある。実は複数の規格があるのだ。今のところ優勢に見える松下の規格とは別の規格があり、異なる規格のPLC機器は親機と子機をつないだり、同じ部屋で同時に使う上で問題が生じかねない。購入時に販売店で規格を確認して、説明を求めるのが賢明だ。アマチュア無線や医療用機器への影響も指摘されている。使用は屋内に限定されていて、戸外に影響を与えそうな開放空間では使えないルールだ。
オーディオやパソコンの結線・配線は「頼れる男・おやじ」を見せ付けるチャンス。PLCは屋内の美観を損ねがちなケーブルを消し去ってくれる上、家族全員に高速ネット接続を提供するメリットが大きい。うまく導入すれば、家族内で株を上げるのにも一役買ってくれるかも知れない。