無線LANアンテナを理解する PART3
802.11nベースのAPは、複数のアンテナを使用することにより、ネットワークの範囲を大幅に拡大するとともに、従来のAPで障害の原因となっていた問題にも柔軟に対処する。
[Lisa Phifer,TechTarget]
http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/news/0803/04/news01.html
本連載のPART1とPART2で説明したように、ワイヤレスデバイスで用いられるアンテナは、無線LANの通信距離、セキュリティおよびパフォーマンスに大きく影響する。新しい802.11nドラフト規格に準拠したアクセスポイント(AP)では、それが一層顕著になる。802.11nベースのAPは、複数のアンテナを使用することにより、ネットワークの範囲と利用可能な帯域を大幅に拡大するとともに、従来の802.11a/b/gベースのAPの障害の原因となっていた問題にも柔軟に対処する。
PART1で述べたように、すべての802.11デバイスは電波を発生させ、その電波をアンテナを使って空中に拡散させる。ベーシックなダイポールアンテナは、あらゆる方向に電波を放射する。これはプールに投げ込んだ小石が波を発生させるのと似ている。さて、この波がプールの壁に当たった様子を思い浮かべていただきたい。一部の波は壁に反射し、後から遅れて壁の方に進んできたほかの波と衝突するだろう。波と波が衝突すると、一部の波はさらに高くなり、一部の波は小さくなったり消滅したりする。
電波が送信機と受信機の間でドアや窓などの障害物に当たったときも、同じようなことが起きる。この現象はマルチパスと呼ばれ、同一の送信電波から生じた多数の反射波がわずかな時間差で受信機に到達する。この過程で、一部の反射波がほかの反射波を増大させたり、減少させたり、ゆがめたりする。
読者の中には、マルチパス現象をアナログテレビで経験した人もいるだろう。いわゆる「ゴースト」だ。人間の頭脳は非常に精巧な入力処理装置であり、少しくらいのゴーストであれば無視することができるのだが、あまりゴーストがひどくなるとテレビ画面が非常に見づらくなる。同様に、マルチパスによるフェージング(受信電波の変動)や遅延がひどくなると、802.11受信機は反射波を正しく理解できなくなったり、信号が劣化して意味のある通信ができなくなったりする可能性がある。
無線LANの速度と通信容量を増大させるために802.11n規格の開発に着手したベンダー各社は、マルチパスを有効に利用しようと考えた。2.4GHzあるいは5GHzの各チャネルが伝送できるデータ量は限られている。しかし、802.11のデータフレームを複数の断片に分割し、これらの断片のそれぞれを異なるパスで送信すれば、そのフレームはより短時間で受信機に到達でき、同じ時間内でより多くのフレームを送信することができる。もちろん、受信機は断片を元のフレームに再合成する方法を知っている必要がある。マルチパスを利用して速度と通信容量を改善するこの手法は、空間多重化と呼ばれる。
通信速度と品質の改善
802.11nデバイスが空間多重化のメリットを生かすためには、複数の信号を同時に送受信できなければならない。802.11a/b/gデバイスにはその機能がない。複数のダイバーシティアンテナを装備したAPでも、送受信で一度に使われるのは1本のアンテナだけだ。しかし、すべての802.11nデバイスは複数のMIMO(Multiple Input Multiple Output)アンテナを使用することにより、利用可能なチャネルを有効に活用する。
MIMOデバイスは、同時に使用する送信および受信アンテナの数で表現される。例えば、2×1 MIMO APは2本のアンテナを使って送信し、1本のアンテナを使って受信するのに対し、3×3 MIMOは3本のアンテナを使って送受信を行う。一般に、2本の送信アンテナは3本の送信アンテナよりも帯域幅が狭い(実際にはもう少し複雑なのだが)。それ故、MIMOアンテナの構成は、802.11n製品を購入する際の重要なポイントとなる。
MIMOアンテナは、複数のパスのそれぞれに異なる情報を送信できるだけでなく、複数のパス上で同じ情報を送信するのにも利用できる。こうすることより、受信する信号の品質が改善される。例えば、緊急のメッセージを同僚に伝えなければならない場合を考えていただきたい。あなたは恐らく、会社の留守電、携帯電話の留守電、電子メールなど複数の手段でそれを伝えようとするだろう。そうすれば、相手にメッセージがきちんと伝わる確率が高くなるからだ。802.11n APの中には、MIMOをこのような形で利用し、冗長通信によって信号強度を改善する製品もある。信号強度の改善は、無線LANの速度向上のや通信範囲の拡大にもつながる。
信号方向の制御
以上に述べたように、802.11nの優れたパフォーマンスは複数のアンテナと高度な信号処理機能を組み合わせることで実現される。802.11n規格ではそのほかにも、広くサポートされている多数の手法を採用している。例えば、2本の標準(20MHz)の802.11a/b/gチャネルを束ねて1本の2倍幅(40MHz)の802.11nチャネルを実現する手法だ。これにより、高いスループットを要求するアプリケーションをサポートできる。そのほかにも、あまり知られていない機能で802.11nに関係するものがある。送信ビームフォーミングという技術だ。
ビームフォーミング技術を使用しない場合、出荷時の状態の802.11nアンテナはあらゆる方向に信号を放射する。これは、従来の802.11a/b/gベースのAPに搭載されたオムニアンテナと同様だ。ビームフォーミングを使用すれば、送信機は個々のMIMOアンテナから放出される信号を調整することにより受信品質を改善できる。これによりAPが特定の受信機の方向に信号を送信できるようになり、指向性アンテナを使用するのと同様の効果を得ることができる。ただしビームフォーミングでは、送信機と受信機の間で緊密な連携が要求される。
また、一部の802.11nベースのAPでは、単体で販売されているオムニアンテナや指向性アンテナも使用でき、これにより必要なカバーエリアに信号出力を集中させることができる。例えば、802.11nベースのAPにパッチアンテナを接続し、店舗の奥の壁に取り付けるといったことも可能だ。802.11シグナルプロセッサは受信能力を高める補聴器のような役割を果たすが、拡声器(指向性アンテナ)を利用すれば、音(信号)を発生源のところで増幅できるのだ。
結論
100Mbpsを超える通信速度を達成し、信頼性の高い信号で広い通信範囲をカバーする802.11n製品は、優れたアンテナデザインと高度な信号処理がもたらすメリットを立証するものだといえる。
標準化前の「Pre-N」無線LAN製品は、かなり以前から出回っている。Wi-Fi Allianceは2007年夏、802.11n規格のドラフト2.0をベースとした相互運用性テストと認定プログラムを開始した。今回紹介した速度と通信距離を改善する技術の多くは、認定を受けた802.11nドラフト2.0対応製品に既に搭載されている。