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フェムトセルで変わるケータイとブロードバンドの関わり

7月はじめ、ソフトバンクは報道関係者を集め、フェムトセルへの取り組みについての説明会を行なった。ユーザーにとって、フェムトセルはまだなじみのない技術のひとつだが、その使われ方によっては、今後のケータイの進化やブロードバンドとの関わり、通信業界全体を大きく変えてしまうモノになるかもしれない。今回はフェムトセルの課題とそこから見えてくる可能性などについて、説明しよう。

http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/mobile_catchup/35713.html

■ フェムトセルとは?

ソフトバンクの実験で公開されたモトローラのフェムトセル

 今さら説明するまでもないが、ケータイは電波を利用して、通話や通信を実現している。電波の届く範囲にいなければ、ケータイ本来の機能である通話や通信ができなくなってしまう。この電波が届く範囲のことを主に「エリア」「通話・通信可能エリア」などと呼んでいる。こうした通話・通信可能エリアは各事業者が設置した基地局から発せられる電波の届く範囲によって、決まってくる。ひとつの基地局がカバーする範囲のことを「セル」と呼んでおり、ケータイが「セルラー」と呼ばれる語源にもなっている。ケータイの場合、事業者ごとに基地局の設置は異なるが、通常、ひとつの基地局で数kmをカバーする「マクロセル方式」という方式を採用している。これに対し、PHSは数百m程度をカバーする「マイクロセル方式」を採用している。

 しかし、最近では地下やビル陰など、使えないエリアを少しでも減らすため、小型の基地局を開発し、地下街やビル内などに設置している。こうした基地局のことをマクロセルやマイクロセルよりも小さなエリアをカバーするという意味で、「ナノセル」や「ピコセル」と呼んでいる。

 今回、ソフトバンクが公開し、今後、実証実験を行なうのは、これよりもさらに小さなエリアをカバーする「フェムトセル」と呼ばれるものだ。「フェムト」は「ナノ」の「10億分の1」や「ピコ」の「1兆分の1」よりもさらに小さい「1,000兆分の1」を表わす単位だ。具体的に、どれくらいのエリアをカバーするという意味から、こうした単位が付けられているわけではないが、従来の小型基地局に比べ、物理的サイズが小さく、カバーするエリアもユーザー宅内など、限られたエリアとなっているため、こうしたネーミングで呼ばれている。

 具体的な製品のサイズは製品によって異なり、開発中の機器にはかなりサイズが大きなものもあるが、その多くが一般ユーザーが家庭などで利用している無線LAN対応ルーターや外付けハードディスク程度にまとめられている。



■ ソフトバンクの考えるフェムトセル

実証実験のシステム構成イメージ


 フェムトセルはコンパクトであるため、今まで基地局が設置が難しかったような場所にも設置できるため、いわゆる「圏外」を減らすことができる。特に、ソフトバンクのソフトバンク3GやNTTドコモのFOMAは、周波数として、主に2GHz帯でエリアを展開してきたため、800MHz帯を中心にエリアを展開するauに比べ、地下街やビル陰などに電波が届きにくく、エリア展開が不利と言われてきた。これをナノセルやピコセルのような小型基地局を増やすことで、エリアをカバーしてきたわけだが、フェムトセルでエリアを展開できれば、電波の届きにくい場所をさらに減らすことができるわけだ。

 「電波が届くエリアが拡大する」というのは、ユーザーにとって、魅力的な話だが、実はここまで書いてきたフェムトセルの話は、あくまでも一般的なものでしかない。ソフトバンクはフェムトセルを従来の基地局とは違った形で活用することを考えており、それは今後の通信業界に大きな影響を与えてしまうかもしれない。

 まず、フェムトセルは小さいとは言え、基地局のひとつだ。そのため、通常はフェムトセルを設置する場所と携帯電話事業者のネットワークの間を専用線で接続する。たとえば、NTTドコモも先日、フェムトセルの開発を発表し、WIRELESS JAPAN 2007にも参考出品をしていたが、NTTドコモのフェムトセルでは設置場所に専用線を引き込み、フェムトセルを固定し、最大4人までのユーザーの同時利用を実現するとしている。

 こうした運用方法は、ソフトバンクでも「小型基地局」として、昨年来、希望ユーザーに対し、無償貸与のサービスなどを展開してきた。しかし、実際の設置には免許申請などが必要になるため、1~2カ月の時間が掛かっているという。設置した基地局については、免許を受けた無線基地局となるため、ユーザーが自由に電源をON/OFFしたり、位置を移動したりできないようにしている。

 これに対し、今回、ソフトバンクが行なうフェムトセルの実証実験では、携帯事業者が敷設する専用線の代わりに、ユーザーがすでに敷設(契約)しているブロードバンド回線に直接、同社のフェムトセルを接続する。仮に、ユーザー宅でソフトバンク3Gの電波が微弱だったり、エリア外であってもフェムトセルを設置することで、通常のソフトバンク3Gの基地局と同じW-CDMA(HSDPA)方式の電波がフェムトセルから発せられるため、ソフトバンク3Gのケータイを快適に利用できるようになる。言わば、自宅内にソフトバンク3Gの基地局が設置されるような状況になるわけだ。

ドコモもフェムトセルを発表 ドコモが公開したフェムトセル用小型基地局


 数年前、PHSを家庭用電話機の子機として利用できる「ホームステーション」や対応コードレスホン(親機)が販売されていたが、そのときと同じように、家庭内でもソフトバンク3Gのケータイを活用してもらおうという考えだ。ただ、PHSのホームステーションでは、PHS端末側でPHS回線網と固定電話網(コードレスホン)の両方を待受するようなしくみを採用しているのに対し、ソフトバンクのフェムトセルはあくまでもケータイの基地局として動作するため、基本的には発着信共にソフトバンク3Gの携帯電話網へ接続される。

 また、フェムトセルを利用する上で、ソフトバンク3G本来の基地局や近隣に設置された同じフェムトセルなどとの干渉が気になるが、開発メーカー各社によれば、フェムトセルは出力が数十mW以下と小さい上、利用開始時に周囲の電波状態を調べ、干渉が起きないように出力などを自動的に調整する機能を持っているため、実用上は問題が起きないという。セキュリティ面については、フェムトセルを設置したユーザー宅のソフトバンク3G端末しか使えないようにするなど、認証の設定も可能だそうだ。つまり、家族は使えても隣近所のユーザーや偶然、通りがかった他のユーザーが自宅のフェムトセル経由で通話や通信ができないようにも設定できるわけだ。

 ソフトバンクとしては、今回のフェムトセルの実証実験の結果を踏まえ、後述する法的な問題をクリアした上で、できるだけ安価にフェムトセルをユーザーに提供し、一気に通話・通信可能エリアを挽回しようという考えだ。しかも、その際はかつてYahoo!BBを展開したときと同じように、ユーザーに「設置をお願いする」、あるいは「配布する」ような形で展開したいと考えている。ちなみに、フェムトセルは現状、数百ドルのコストが掛かるが、チップなどのコストは着実に低廉化が進んでおり、2万円以下も十分、視野に入るレベルが見えつつあるという。

 ソフトバンクではフェムトセルを導入した場合、単純にエリアを拡大させるだけでなく、料金面についてもアグレッシブな施策を検討している。同社によれば、現在、ケータイのトラフィックは80%がインドアで利用されているが、フェムトセルを導入することにより、本来の基地局を経由したトラフィックが少なくなる可能性がある。フェムトセルの導入によって、無線ネットワークの負担が軽減されるのであれば、フェムトセル経由の通話や通信について、何らかのオプションを与える可能性があるという。たとえば、同社はホワイトプランやゴールドプランといった料金プランにおいて、同社ユーザー宛の通話を無料で提供しているが、21~1時の間は対象外となっている。フェムトセル導入時は、フェムトセル経由の通話について、この時間帯も無料化することも十分にあり得るという。

サムスン製フェムトセル フェムトセルを経由してテレビ電話を利用

エリクソンのフェムトセル NECのフェムトセル



■ ソフトバンクの考えるフェムトセルが抱える課題

ソフトバンクの実証実験では規制緩和が必要とされた


検討事項

 ユーザーとしては利用できるエリアが拡がり、料金的なメリットも期待できるフェムトセルだが、実は解決しなければならない問題を数多く抱えている。ソフトバンクでは今回の実証実験の結果を踏まえ、それらの問題をクリアしたいと考えているようだ。

 まず、現時点で大きな壁になると言われているのが法的な問題だ。ソフトバンクが従来から提供してきた「ホームアンテナ」やNTTドコモが参考出品した「フェムトセル」がそうであるように、本来、無線基地局は免許を受け、決められた場所に事業者が設置しなければならない。設置した場所を動かすこともできなければ、電源のON/OFFや電源コンセントの抜き差しなども許されない。そのため、ソフトバンクが提供する現状のホームアンテナではコンセント部分にカバーを付けるなどの対処までしているという。

 ところが、今回のフェムトセルでは、ユーザーが自由に自宅のブロードバンド環境に接続することを目指している。場合によっては自宅からフェムトセルを取りはずし、出張に持っていき、滞在先のブロードバンド回線に接続して、フェムトセルを動作させる活用も考えているという。

 しかし、こうした使い方を実現するには、電波法や電気通信事業法などを改正したり、解釈を変更する必要がある。たとえば、一般のブロードバンド回線にフェムトセルを接続する場合、責任分界点をどうするかを考慮しなければならない。電気通信では事業者が設備や回線のどこまでに責任を持ち、どこからは利用者(ユーザー)や他事業者が管理するという「分かれ目」を明確化しなければならないが、フェムトセルはユーザーが敷設したブロードバンド回線に設置することになる。フェムトセルを設置する事業者とブロードバンドの事業者が同じで、設備もその事業者がすべて管理すれば、ある程度、問題はクリアになりそうだが、実際にはユーザーがルーターなどのネットワーク機器を接続し、そこにフェムトセルを設置する可能性もあるため、故障などのトラブルが起きたときの責任が明確ではなくなってしまう。

 ちなみに、ソフトバンクでは自社グループ内のYahoo!BBだけでなく、将来的にはNTT東日本・NTT西日本のBフレッツなどをはじめ、他社のブロードバンド回線に接続することも考えている。責任分界点の問題などがクリアできなければ、こうした環境の実現は難しくなってしまう。

 また、関連する部分で言えば、そもそもユーザー名義で契約したブロードバンド回線に、携帯電話の事業回線に相当するものを相乗りさせていいのかという問題もある。ソフトバンクによれば、総務省は好意的とのことだが、無線LANアクセスポイントを提供する「FON」などのサービスでも注目されていることであり、今後、さらに議論を呼ぶことになりそうだ。


 緊急通報位置通知の問題もクリアしなければならない。現在、携帯電話では110番や118番、119番への緊急通報をする場合、発信者の位置を通知する緊急通報位置通知が義務化されているが、ユーザーがフェムトセルを自由に設置できるようになると、GPS以外での位置情報(基地局情報を基にした位置情報)が通知できなかったり、正しく通知できない可能性が出てくる。特に、前述のように、ユーザーが出張先にフェムトセルを持ち出せるようなシチュエーションを考えると、かなり面倒なことになる。ただ、今回のデモンストレーションに使われたフェムトセルには、背面にGPSと書かれた端子を持っているものもあった。あるいは、ケータイ本体がGPS機能を持っていれば、それをベースに位置情報を送信することはできる。

 こうした法的なこととは別に、設備面や技術的な課題も多い。たとえば、現在の携帯電話網には、各基地局から送られてきた信号を受け、端末の接続やハンドオーバーを制御するための設備があるが、仮にフェムトセルの提供を開始することになれば、現在よりもはるかに多い基地局の信号を処理しなければならない。そこで、いくつかの異なる方法で、携帯電話網との接続やフェムトセルの制御を行なうことを検討しているようだが、ネットワーク機器メーカーからは「技術的にネットワーク設備を各事業者のニーズに合わせ、作り込むことはできるが、実際にやってみなければ、どれくらいの期間が掛かるのかは何とも言えない」という声が聞こえてくるなど、まだ実運用には未知数の部分も多い。だからこそ、ソフトバンクは実証実験をやるわけだが……。

 ユーザーに近い部分にも課題はある。フェムトセルを一般のブロードバンド回線に接続する場合、前述した法的な課題もあるが、市販のルーターなどに接続したとき、携帯電話網の設備に正しく情報が登録でき、ケータイがフェムトセル経由で利用できるかという実用的な課題も残されている。グループで提供するYahoo!BBのみをサポートするのであれば、ある程度、接続機器の情報を把握できるだろうが、同社グループ以外の事業者が提供するブロードバンド回線に接続するとなれば、各社が提供する機器やユーザーが設置した市販のルーターで正常に動作するのかなども検証しなければならない。仮に、全製品を検証しないとしてもサポートにはかなり手間が掛かることが予想される。

 ちなみに、フェムトセルのメーカーの説明によれば、フェムトセルはUPnPのしくみを利用し、ルーターなどのゲートウェイを経由して、携帯電話網の設備と接続するという。つまり、ルーターのUPnP対応がフェムトセル利用のひとつの条件になりそうなのだが、ITリテラシーの高くないユーザーにこうした機器の条件がきちんと説明できるだろうか。特に、サポート面については、ソフトバンクグループの過去の経緯を踏まえると、やはり、不安が残ると言わざるを得ない。


 そして、他事業者が提供する一般のブロードバンド回線に接続することになれば、昨年あたりから通信事業者間で話題に上っている『ただ乗り』と同じような議論が繰り広げられるかもしれない。ただ乗りの議論とはUSENの「GyaO」やIP電話サービスの「Skype」、動画サービスの「YouTube」などのトラフィックが急増しているのに対し、インターネット接続サービスのインフラストラクチャを提供している事業者やISPは対価を受け取っておらず、このまま、トラフィックが増加すれば、設備投資などに影響が出てしまうかもしれないとしている。もし、ソフトバンクのフェムトセルを経由したトラフィックが増えたり、ネットワークに影響が出るようなことがあれば、ブロードバンド回線を提供している他事業者やISPからは反発が出てくることは十分に考えられる。

 いずれにせよ、ソフトバンクが検討しているフェムトセルは、法的な問題や他事業者との関わり、サポート体制など、いろいろな面でクリアしなければならない課題が存在することは確かだ。今回の実証実験ではそれらを確認し、問題の解決策を見つけ出すことも目的となっているわけだが、どのような形で方向性が打ち出されるのかが注目される。



■ なぜフェムトセルなのか

ソフトバンクのフェムトホームサーバー

 これだけの課題があるにも関わらず、なぜフェムトセルの導入をするのだろうか。そこには今後のケータイ業界や通信業界が狙う次なる時代の通信ネットワークがあるからだ。

 現在、ケータイ業界の将来的な進化として、「FMC(Fixed Mobile Covergence)」が注目を集めている。FMCは固定電話網と携帯電話網を連携させたり、融合させたサービスのことだ。たとえば、自宅に帰ったとき、家に掛かってきた電話をケータイで受けたり、逆にケータイに掛かってきた電話を在宅時は自宅の電話で受けられるようにすることなどが考えられる。すでに、部分的には実現していることだが、大容量のコンテンツはブロードバンド回線経由で転送しておき、ケータイではリアルタイム性の高いコンテンツを利用できるようにするというスタイルもある。固定とモバイルのネットワーク的な垣根を取り払い、いろいろな通信網を連携させながら、有効にネットワークを活用することが検討されている。

 FMCについては各通信事業者がいろいろな形で実現しようとしているが、ソフトバンクとしてはフェムトセルを活用することで、これと同じような利用スタイルが実現できる環境を目指している。ちなみに、他事業者ではケータイに搭載した無線LANやBluetoothを利用し、家庭やオフィスの固定網と連携することを考えており、NTTドコモはN902iL、auはE02SAなどの端末とともに、法人向けソリューションを展開している。一般ユーザー向けのFMCについては、両社とも具体的な策がまだ見えてきていないが、ソフトバンクの動きを見て、両社がフェムトセルを活用してくることも考えられる。

 また、これは少し脱線した見方かもしれないが、ソフトバンクグループとして、一般ユーザー向け通信サービスの軸をケータイに集約しようとしているのではないかという見方もできる。ソフトバンクグループの一般ユーザー向け通信サービスと言えば、ADSL接続サービスの「Yahoo!BB」が知られているが、現在、都市圏を中心に光ファイバによるインターネット接続サービスへの移行が急速に進んでいる。ADSL接続サービスについても速度を限定し、コストを抑えた低価格・低速サービスが普及し始め、Yahoo!BBは少しずつ戦いにくい状況になりつつある。このまま、光ファイバや低価格ADSLへの移行が進めば、同社の一般ユーザー向け通信サービスは徐々にジリ貧になってしまう。だからこそ、グループ内でもっとも収益力のあるケータイを主力サービスとして、さらに強化したいと考え、フェムトセルの展開を急ごうとしているのかもしれない。今回のフェムトセルの実証実験で、自社が提供するブロードバンド回線(Yahoo!BB)だけでなく、他事業者のブロードバンド回線への接続も検証したいとしているのは、こうした事情も関係しているのではないだろうか。

 ここまで説明してきたように、ソフトバンクが考えるフェムトセルは、さまざまな課題があるものの、エリアや料金的なメリットに加え、ケータイとブロードバンドインターネットを連携させたサービスが提供しやすくなるなど、今後のケータイ業界と通信業界を巻き込んだ大きな動きの発端になるかもしれない。実証実験の行方も気になるが、今後の関連各社の動向にも注目していきたい。


■ 関連記事

・ ソフトバンク、「フェムトセル」実験を公開

・ ソフトバンク、室内をカバーする「フェムトセル」の実証実験

・ ドコモ、室内をカバーする小型基地局を開発

・ 第321回:フェムトセル とは


(法林岳之)

2007/07/31 12:31

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