ケータイ・無線LAN・Bluetooth
「困った。設計上は問題ないが動作しない。何とかならないか」--。こんな相談が最近,携帯電話機メーカーや携帯端末メーカーなどから「ある会社」にしばしば寄せられるそうです。回路設計を終えて基板を試作したが,設計通りに動作しなかったり所望の性能が得られなかったりするといいます。相談先のある会社とは,電磁雑音の計測器メーカー。設計者は電磁雑音が悪さをしていることを突き止めながら,解決に手を余して計測器メーカーに助言を求めたという構図です。
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20070608/133835/
機器内の電磁雑音の問題が,携帯電話機やノート・パソコン,携帯端末などの領域で話題になっています。LSIやプリント基板で発生した電磁雑音が,ほかの回路ブロックに悪影響を及ぼすというものです。この問題は「機器内EMC」や「自家中毒」と呼ばれ,とりわけ無線回路に大敵です。無線通信やデジタル放送の受信感度を低下させる問題を招きます。日経エレクトロニクス誌では,次号の企画記事でこの問題を取り上げます(2007年6月18日号のSpecial Feature「急増する機器内雑音,無線性能を左右」)。
機器内EMCの問題に直面するケースが急増したのは,技術的な背景があります。Bluetoothや無線LAN,GPS,携帯電話など,影響を受ける無線部品の搭載そのものが増えたことに加え,機器の小型化に伴って雑音源と無線部品を物理的に近くに実装せざるを得なくなってきたことです。これらの要因の解説は次号の誌面に譲りますが,実はそこで触れられなかった別の背景を指摘する声を取材の過程で何度も耳にしました。技術的ではなく,構造的な要因です。それは無線機能をモジュール部品で調達するようになった結果,システム設計の現場でEMC設計が手薄になったというのです。
Bluetoothや無線LAN,GPSなどの無線機能は現在,部品メーカーがモジュール部品として機器メーカーに提供するケースが増えています。機器メーカーは,複数の無線部品などを組み合わせてシステム設計を進めます。分業体制です。システム設計では論理的な整合性などに主眼が置かれているようで,結果としてEMC設計が後手に回り,冒頭のような問題に直面しやすくなりました。
機器内の電磁雑音の問題はそもそも,古くからある現象です。かつてラジオや無線機の開発の際,雑音が「まわり込む」ことに対策を施すのは設計の基本事項でした。しかしシステムが高度化して無線回路をモジュール部品として調達するようになり,「新しい問題」となって顕在化してきたのです。雑音対策に長けた技術者が少なくなってきたことも,この問題に拍車を掛けています。
ただし機器内EMCは「問題」なのではなく,見方を変えれば機器開発において他社から抜きんでるポイントになり得ると考えます。システム設計の上流で積極的に対処すれば,競合他社に比べて実装密度を高めて筐体を小型にしたり,開発期間の短縮につなげることができます。規格モノの無線機能も,受信感度をより高い製品に仕上げることにつながります。
EMC設計はこれまで,品質問題として捉えられがちでした。日本のVCCI規格や米国のFCC規格など各国・地域で自主規制や法規制があり,エレクトロニクス機器を製品化するにはこれらの遵守が必須だからです。「規則を守るために」,設計を見直したり,受動部品や電磁シートなどの対策部品を挿入するといった意識が少なからずあったようです。しかし機器内のEMC問題が明らかにしたように,これからのEMC設計は「小型化のため」「受信感度を高めるため」といった視点がより重要になります。関連する技術者が少ないからこそ,今後の強化項目の一つになるのかもしれません。