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日本貨物鉄道(JR貨物)

鉄道貨物輸送を展開する日本貨物鉄道(JR貨物)。

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/JIREI/20070508/270207/?ST=network&P=1

旧国鉄時代から引き継がれてきた旧来の業務体制の刷新を目指して,1994年からIT改革を柱とする業務の抜本的な見直しを段階的に実施してきた。紙ベースで行ってきた貨物輸送管理や,担当者の経験値に依存していた発送時の調整業務などを電子化および自動化する改革である。

 「IT-FRENS&TRACE」と名付けた業務システムは2005年8月に最終形が完成し,現在までに業務改革の効果が出始めてきている。JR貨物のシステム概要とその効果を担当者に聞いた。

コンテナの一元管理が第一の目標

 JR貨物が手がける鉄道貨物輸送の形態は,コンテナ輸送が主流である(写真1)。実際,同社の輸送トン数の約6割をコンテナ車が占める。各貨物駅では大量のコンテナが積み降ろしされて散在し,かつ様々な運輸業者が出入りする中で,コンテナの荷役に伴う管理業務が重要となる。システムの構築にあたっては,先ず各貨物駅内におけるコンテナの荷役業務とコンテナの所在管理を徹底し,これを本部で一元管理することを目指した。

写真1●JR貨物が輸送するコンテナ

写真1●JR貨物が輸送するコンテナ

コンテナを貨物列車で輸送する業務が6割を超える。

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 2000年4月まで,コンテナの管理は荷票と呼ばれる紙を用い,貨物駅に常駐するスタッフがコンテナの番号や行き先などを手書きで記載する方法を採っていた。「人手も時間もかかるうえ,荷票に書かれたコンテナが見当たらない場合は,見つけ出すまでに多大な労力を費やしていた」(日本貨物鉄道 IT改革推進室 室長代理(統括)の西村公司氏)という。

 人海戦術からシステム化への転換として,まず2000年2月に,ICタグを用いてコンテナを列車へ積載する際の情報登録を自動化するシステムの開発に着手。そして試行錯誤や改良のうえ2004年1月に正式に稼働したシステムが「IT-FRENS&TRACE」である。

 IT-FRENS&TRACEは現在,全国で約120の貨物駅に導入されており,主に2つの役割を果たしている。1つは,フォークリフトの荷役作業やコンテナの位置情報をリアルタイムに把握すること。フォークリフトにはGPS(全地球測位システム)機能を搭載し位置を管理するとともに,コンテナや貨車(コンテナ車)にはそれぞれの登録番号を書き込んだICタグを装着。これによりコンテナごとのリアルタイム管理が可能になった。2つ目はコンテナをどの列車のどの車両に積み込むのかを特定する,予約管理の実現である。

ICタグとGPSの活用で,コンテナの現在位置をリアルタイムに把握

 IT-FRENS&TRACE システムは,3回にわたって機能を追加しながら導入を進めてきた。2004年1月の1次リリースでは,コンテナなどのICタグ情報をGPS位置情報を基にしてシステム上でマッピングし,フォークリフトに搭載した専用端末で位置を閲覧できるシステムを導入した。次いで2005年1月の第2次リリースでは,予約機能を1994年に導入した従来のシステムから新版に入れ替えた。そして2005年8月には,貨物駅を利用するドライバーが輸送の予約や,作業内容の確認などを行うドライバーシステムを含む最終版をリリースした。

 IT-FRENS&TRACEシステムでは,ICタグやGPSの機能を活用してフォークリフトの荷役作業やコンテナの位置情報管理の効率化を図った。具体的には,鉄道輸送に利用する約9万6000個のコンテナ(JR貨物所有は約7万5000個,運輸会社などの所有が約2万1000 個)や,約8000両のコンテナ貨車,および貨物駅を利用する運輸会社の約2万台におよぶトラックすべてに,それぞれの登録番号を書き込んだICタグを装着した。また,JR貨物の場合,貨物駅内での荷役はすべてフォークリフトが担っているため,約540台ある全フォークリフトに,ICタグのリーダーとコンテナの上げ降ろしを感知するセンサー,GPS装置,さらにモバイル通信用のアンテナを取り付けた。

 実際の動作はこうだ(図1)。フォークリフトが積み降ろしするコンテナの至近距離まで来ると,コンテナに取り付けた ICタグの情報をフォークリフトのICタグリーダーが自動的に読み取る。積み降ろしする際には,コンテナのICタグに加えて貨車やトラックに取り付けた ICタグの情報も同時に読み取る。フォークリフトのセンサーはその際の動作を感知して,積んだのか降ろしたのか,あるいは複数のコンテナを積み上げた際は何段目に置いたのかを特定。これと同時に,フォークリフトに取り付けられているGPS装置から現在の位置情報を取得し,ICタグから読み取ったコンテナや貨車の固有の番号情報などとともに,モバイル通信を使ってセンターへ送信する。

図1●JR貨物の「IT-FRENS&TRACE」

図1●JR貨物の「IT-FRENS&TRACE」

駅で荷役作業を担うフォークリフトをハブにして,ICタグおよびGPS情報をセンターとやり取りする。フォークリフトからセンターへの通信は,駅の規模により無線LANと公衆PHSを使い分ける。

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 これらの仕組みによりセンター側では,フォークリフトがコンテナをどこに置き,どの貨車に載せたのか,あるいは貨車にどれくらいコンテナが載せられ,あとどれくらい積載する余裕があるのかを一元的に把握できる。

 コンテナの情報を一元管理することで,貨物駅を利用するトラックドライバーへの情報提供も可能になった。ドライバーごとに付与したID カードを「ドライバーシステム」と呼ばれる端末に挿入すると,当日の作業内容がディスプレイに表示されるとともに,自身が担当するコンテナの番号と所在位置がIDカードに書き込まれ,配達伝票が出力される。どこにコンテナを降ろし,どこからピックアップすればいいのかがすぐに分かる仕組みだ。

 また,予約管理の機能も向上させた。利用者である運輸会社側から,コンテナを輸送する貨物列車を事前にインターネット経由で予約できるようになり,登録された予約情報はセンターで集約。さらにこの情報はモバイル通信を介してフォークリフトへフィードバックすることで,予約と荷役業務が連動できるようになった。荷役業務スタッフはフォークリフトが備える専用ディスプレイ端末で情報を確認しながら,予約内容に従った業務を遂行できる。

 JR貨物では,ICタグシステム構築の成功のポイントして,ICタグに書き込む情報を最小限にとどめたことを挙げる。「ICタグに貨物の行き先など可変情報を書き込んでしまうと,運用上のリスクが高まる。書き込む情報を間違ってしまったり,古い情報を消し忘れてしまった場合,情報を修正するために輸送中のコンテナを追跡するなど大きな手間がかかる。また,情報漏えいのリスクも高まる」(西村氏)。

 そこでIT-FRENS&TRACEでは,ICタグに詳細な情報を書き込むのではなく,センター側で可変情報を集中管理する方式を採用した。登録された情報に何か変更が生じたり,誤りがあったとしても,センターサーバーへアクセスすれば,すぐに情報を更新できるというわけだ。

フォークリフトとの通信は無線LANとPHSを駅により使い分け

 駅構内のフォークリフトは,ICタグやGPSから取得した情報などをモバイル通信を利用してセンターサーバーとやり取りする。モバイル通信の方式は貨物駅の規模によって2種類を使い分けている。フォークリフトが10~20台稼動している大規模駅では駅構内に自前で無線LANを構築,フォークリフトが 1~3台程度の中小規模の駅ではPHSの公衆サービスを採用している。システムを導入している約120駅のうち,自前で無線LANを構築している貨物駅は約30駅で,残りの貨物駅ではPHS通信を利用している。

 無線LANは最大通信速度が11Mビット/秒のIEEE802.11b方式を採用している。縦横数百メートルほどある敷地の中で200メートル程度の間隔ごとに中継局を設置し,駅構内全域をカバーする設計である。

 無線LANを構築すれば,複数のフォークリフトがセンターサーバーと一斉に情報をやり取りしても耐えうる高速大容量通信が可能となる。また,障害時の対応も素早く行えるメリットがある。しかし,導入時の初期コストやメンテナンスの手間,駅構内で事務所の移転などに伴う中継局の移設や調整に多大な費用と労力を要するというデメリットも持ち合わせている。

写真2●フォークリフトに搭載するPHSモジュール

写真2●フォークリフトに搭載するPHSモジュール

市販のカード型PHS端末を,耐衝撃・耐熱性のきょう体で保護して利用する。

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 そこで,フォークリフトの台数が少ない中小規模の駅では,導入や運用が簡単なPHSの公衆サービスを使い,定額制データ通信サービスを契約している。通信速度に目をつぶれば,PHSのデータ通信サービスを契約した方が,毎月の使用料を支払っても自前の無線LAN設備よりも手軽に低コストで利用できるという判断だ。

 フォークリフトに装着するPHS通信ユニットには,市販のデータ通信カードにアダプターを組み合わせて使用している。これをフォークリフトの強い振動や衝撃,あるいはマイナス30度からプラス55度までの気温の変化にも耐えうるきょう体で保護した上で,車内に格納してある(写真2)。

 無線LANでは1秒ごとに,PHS通信では7秒ごとに,フォークリフトの位置情報を収集し,同時にフォークリフトにはコンテナの位置情報を配信している。これにより,ほぼリアルタイムでコンテナの位置をすべてのフォークリフトで確認できる。移動したコンテナの情報を差分として送ることで,毎回配信する情報量を抑えることができた。これらのモバイル通信は,GPS衛星のデータによる測位の誤差を補正するための「補正情報」の受信にも利用。無線LANと PHSによるデータ通信は,精度の高い位置情報を得るためのインフラとしても活用している。

最終版の稼働から1年半,業務効率向上とサービスの充実に実効

 IT-FRENS&TRACEの導入によって業務効率向上が図られ,業務の各所で様々な効果が見られるようになってきた。

 例えば,人員の有効活用。駅内の業務に携わる職員は,委託している関係会社も含めて高齢化が進み,要員の確保が厳しくなってきている。いかに少ない人数で鉄道輸送業務を効率的に回転させていくかが永続的な課題だという。旧来の紙ベースでコンテナを管理する手法では専任担当者が必要であったが,システムの導入によりこの業務自体の必要性がなくなり,要員を他の業務へ回すことが可能になった。業務を変革することで,人員の自然減に対応できるようになったわけだ。

 大きな目的であるコンテナの管理でも成果は上がっている。個々のコンテナの情報をリアルタイムで一元的に把握できるようになったことで,コンテナの回転効率が上がり,少ないコンテナで貨物輸送が行えるようになったという。 またコンテナの紛失防止にも効果がある。従来はコンテナを持ち出したまま,なかなか返却してくれない業者に対する追及の手段がなかった。現在は持ち出した正確な日時を管理できるようになり,データに基づいた留置料や使用料の請求が料金収入の増加につながっている。さらに,システムが本格稼働してからは利用業者の意識も高まって,コンテナが早く返却されるようになり回転効率も上がっている。

写真3●JR貨物 IT改革推進室の西村氏

写真3●JR貨物 IT改革推進室の西村氏

 また予約管理の自動調整機能によって,貨物輸送の最適化を図れるようになったのも効率化に大きく寄与している。繁忙期と閑散期における積載するコンテナのばらつきを自動調整する機能である。急ぎの荷物の予約が入った場合,期日までに届ければよい荷物を直近の列車から後の列車へ振り替えるといった方法で予約内容を自動的に調整する。急がなくてもよいコンテナを,貨物が多い平日の夜行便から休日の便に振り替えるといった調整を進め,全体としての輸送力向上に効果を上げている。

 システムの導入によって,貨物輸送を利用する業者にとっても利便性が上がった。インターネットに接続する環境さえあれば,どこからでも管理情報画面にアクセスして情報照会や予約ができるようになったのである。不正アクセスの防止対策としては,インターネット上で閉域網を作るIP-VPN (internet protocol virtual private network)や,ワンタイムパスワード方式の一種である「Secure Matrix」による認証を採用するなど,複数の対策を組み合わせて安全性の確保に努めている。

 「旧来は駅構内の事務所に専用線をひき,専用端末による予約管理システムを構築していた。運輸会社が自社の荷物の輸送状況を確認するには駅事務所に来る必要があり,特に悪天候の影響を確認するような場合には大変だった。しかし現在のシステムならば,運輸会社のパソコンや,場合によっては自宅のパソコンからでも情報を照会できる」(西村氏)。IT-FRENS&TRACEの導入は迅速で正確な情報の把握や業務の効率化にとどまらず,貨物輸送を利用する事業者への利便性の提供にもつながっている。

◇     ◇     ◇

 段階を踏んで構築を進めたJR貨物のシステムは,リリースのたびにシステム開発スタッフが各貨物駅を訪れ,現場の作業スタッフや貨物駅を利用するドライバーに対して新システムの利用方法を研修してきた。「昔ながらの作業に馴れたスタッフからの反発が全くなかったわけではない。研修でシステム導入の目的や概念から説明し,納得してもらった上で意識を変えてもらえるように努めた」(西村氏)。最終リリースから約1年半経った現在,新システムは現場スタッフに着実に浸透し,目に見える導入効果を拡大しつつある。

(中村実里=ライター)

 [2007/05/11]

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