「ネット接続0円」の衝撃波 英フォン本格上陸、無線LAN大連合へ発展も
高速通信の波とともに姿を消した無料インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)が、今度は無線の世界で復権を果たそうとしている。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20070405/122254/
ユーザーを巻き込みながら「いつでもどこでもタダでネット接続」という世界の実現を目指すのは2005年11月に設立された英フォン・ワイヤレス。
ノートパソコンや携帯型ゲーム機など、普及が進む無線LAN(構内情報通信網)対応機器とネット接続できる公衆無線LANサービス「FON(フォン)」を展開する。
自宅のネット回線をほかのFONユーザーに開放すれば利用料金は無料。ネット接続の“相乗り組合”とも言える新手のサービスが本格上陸した。
「敵か味方か」、困惑のISP
単独の公衆無線LANサービスとしては世界最大に成長したFON。サービス開始からわずか1年で、世界150カ国に約13万カ所のアクセスポイント(接続拠点)が立ち上がり、34万人が利用している。収益源は、接続拠点となる専用機器の販売収入と、ネット回線を開放せずに一時的に利用したい顧客向けの有料プランなど。
昨年2月、米グーグルや米イーベイの子会社で無料ネット電話を手がけるスカイプ・テクノロジーズなど、錚々たるネット関連企業から合計1800万ユーロ(約28億円)の出資を受けた世界の有望株だ。
そのフォンが日本での事業展開を本格化させている。フォンはこの3月、2回目となる大規模な公募増資を行い、6社から合計1000万ユーロ(約16億円)の出資を受けた。この中に伊藤忠商事、エキサイト、デジタルガレージという国内企業が名を連ねたのだ。
日経ビジネスの取材に応じたフォン創業者のマーティン・バルサフスキーCEO(最高経営責任者)は、こう語る。
英フォン・ワイヤレスのマーティン・バルサフスキーCEO。今後は2カ月に1回訪日する予定 (写真:都築 雅人)
日本は25番目に進出した国だが、昨年12月のサービス開始から3カ月足らずで9500カ所以上もの接続拠点が設置され、日本最大の無線LANネットワークとなった。もう熱狂的に受け入れられているのさ。
ニーズが高い日本でFONをもっと普及させるためには、パートナー企業との関係を強化すべきだと考えた。ローカルパートナーとして株主になってもらったのは日本企業だけだ。
フォンは提携企業の支援を受けながら、今年末までに国内で7万5000カ所の接続拠点設置を狙う。
一方で「FONは敵か味方か」と困惑するのが、既存ISPだ。
「我が社のリソースにタダ乗りされる形になる」「契約ユーザー以外の見知らぬ他人が利用して問題が起きた場合、誰が責任を担保するのか」
大手ISP幹部からはこんな声が漏れる。FONは顧客が契約するネット接続を第三者に利用させる形になるが、それを規約で禁じているISPも多い。
例えば国内最大のISP「ヤフーBB」を抱えるソフトバンクは、「FONの利用は規約違反になる。FONユーザーを当社が把握することが可能か技術的な検証をしている最中」という。
だが、バルサフスキーCEOはそうした不安を一蹴する。
ユーザーはすべてIDで管理しており、セキュリティーの問題はない。通信ログも取ってある。FONユーザーによって急激に通信量が増えるわけでもない。誰かが家にいない時に、ほかの誰かがその回線を使うだけのことだ。
我々は世界の多くのISPと提携関係にある。FONはブロードバンド(高速大容量)通信の普及に貢献しており、ISPの敵どころか味方だよ。
バルサフスキーCEOの自信を裏づけるように、風向きが変わる気配もある。フォンと大手ISPとの水面下の交渉に進展があったというのだ。
ニフティとソネットが提携へ
関係者は「ニフティとソネットエンタテインメントの2社が、フォンとの業務提携に向けて前向きに交渉を進めている。数カ月以内に発表できると思う」と明かす。ネット黎明期からISP事業を続ける老舗のニフティやソネットは、ブロードバンドの普及に伴い、シェアをじりじりと下げてきた。「競争が激しい業界で生き残るためには、規約で顧客を縛るのではなく、新たな船に乗った方がよいとの判断に傾きつつある」(関係者)。
収益増という淡い期待もある。FONは欧米で開始している有料プランを日本でも今夏から始める予定で、この収益を提携したISPと分け合う計画だ。
昨年12月にフォンと提携した中堅ISPエキサイトの山村幸広社長は「未知数ながら収益機会は確実に増える」と話す。これにニフティやソネットなどが続き、国内大手がフォンと大同団結する可能性もある。
NTT東西は、今回フォンに出資したエキサイトの主要株主。エキサイトは出資について株主のNTTに事前に説明し許可を得ている。つまり、エキサイトが出資した段階から、フォンは日本で、より大きなグループを形成しつつあるのだ。
バルサフスキーCEOはNTTグループとの連携をこう示唆した。ヤフーを傘下に持つソフトバンクは、グーグルが出資するフォンと手を組むことは考えにくい。だからこそ、バルサフスキーCEOはNTTを意識する。
高速通信サービスはソフトバンクとNTTグループの2強時代。NTTコミュニケーションズとぷららネットワークスのNTTグループ2社が、首位のソフトバンクを追いかけている。
公衆無線LANサービスでも全国約3500カ所に接続拠点を設置し、国内最大規模のサービスを展開しているソフトバンクグループが、唯一NTTグループに伍す存在だ。
「FONは携帯ゲーム機などで利用したいライトユーザーがターゲットで、接続拠点は住宅地に多い。商業地や店舗に拠点が多い既存の公衆無線LANと手を組めば、メリットは大きい」(日本法人の藤本潤一CEO)
ユーザーの支持を得たFONの勢いは止まらない。無料のネット接続サービスを一気呵成に拡大しようとする衝撃波は、「NTT・フォン連合」へと発展するかもしれない。
日経ビジネス2007年4月9日号 42ページからの「ネットのあした 市場創造の光と影」も併せてお読みください。
日経ビジネス 2007年4月9日号6ページより